薬物療法 


版 2016
diagnosis
treatment
causes
Drug Therapy
薬物療法
NSAID - 非ステロイド系抗炎症薬, シクロスポリンA, 静注用免疫グロブリン, コルチコステロイド, アザチオプリン, シクロホスファミド, メトトレキサート, レフルノミド, ヒドロキシクロロキン, スルファサラジン, コルヒチン, ミコフェノール酸モフェチル, 生物学的製剤, 開発中の新薬
evidence-based
consensus opinion
2016
PRINTO PReS
NSAID - 非ステロイド系抗炎症薬
シクロスポリンA
静注用免疫グロブリン
コルチコステロイド
アザチオプリン
シクロホスファミド
メトトレキサート
レフルノミド
ヒドロキシクロロキン
スルファサラジン
コルヒチン
ミコフェノール酸モフェチル
生物学的製剤
開発中の新薬
はじめに
1. NSAID - 非ステロイド系抗炎症薬
2. シクロスポリンA
3. 静注用免疫グロブリン
4. コルチコステロイド
5. アザチオプリン
6. シクロホスファミド
7. メトトレキサート
8. レフルノミド
9. ヒドロキシクロロキン
10. スルファサラジン
11. コルヒチン
12. ミコフェノール酸モフェチル
13. 生物学的製剤
14. 開発中の新薬



はじめに

この項では小児リウマチ性疾患の治療に一般的に使用される薬物療法に関する情報を提供します。各項は4つの主要部分で構成されます。
性状
この項では各薬剤の作用機序および予期される副作用に関する概略を紹介します。
投与量、投与方法
この項では薬剤の投与量ならびに投与方法(錠剤、注射剤、点滴剤など)に関する情報を提供します。投与量は通常体重1kg当たりの1日用量(mg/kg)または体表面積(m2)当たりの用量(mg/m2)で表されます。
副作用
この項は最も広く知られている副作用に関する情報を提供します。
小児リウマチ性疾患における主要適応症
この最後の項では各薬剤の適応となる小児リウマチ性疾患を記載しています。適応とは当該薬剤が小児で臨床試験が行われ、欧州医薬品庁(EMA)あるいは米国の食品医薬品(FDA)およびその他の国の規制当局が特に小児に対して使用することを承認することを意味します。場合によっては、承認されていない場合であっても医師が処方することを決められます。

小児法規、ラベル表示とオフラベル(承認外) 使用および将来の治療可能性
15年前までは、若年性特発性関節炎(JIA)やその他の小児疾患を治療するための全ての医薬品が、小児における試験で適切には評価されていませんでした。このことは医師が成人患者で実施された臨床試験や個人的経験に基づいて薬剤を投与していたことを意味します。
実際に、過去においては、主に小児研究に対する資金不足や製薬企業が小規模で収益の少ない小児市場に関心を示さなかったために、小児リウマチ学における臨床試験を実施することは困難でした。しかし状況は数年前に一変しました。これは米国における「Best Pharmaceutical for Children Act(最適小児医薬品法)」および欧州共同体(EU)における小児用医薬品開発に関する特定法規「Paediatric Regulation(小児規制)」の導入に負うところが大です。実質的には、これらの取組みが、製薬企業に対して、小児用薬剤について研究することを強制させました。
米国とEUの取組みは、二つの大規模ネットワーク、すなわち世界中で50ヶ国以上が参加するPaediatric Rheumatology International Trials Organisation(小児リウマチ国際試験機関、 PRINTO, www.printo.it)および北アメリカに基盤を置くPaediatric Rheumatology Collaborative Study Group(小児リウマチ協同研究グループ、PRCSG, www.prcsg.org)の存在とともに、小児リウマチ学、特にJIAを有する小児に対する新しい治療法の開発、に非常に好影響を与えました。全世界でPRINTOまたはPRCSGによって治療されたJIA患者の属する数百の家族がこれらの臨床試験に参加し、彼らのために研究された医薬品で治療を受けることができました。試験に参加する人の一部は、評価中の医薬品の有効性が有害性よりも高いことを確かめるために、プラセボ(薬効成分を含まない錠剤または点滴薬)を使用するよう求められることがあります。
このような価値ある取組みによって、今日では数種の医薬品がJIAに対して特別に承認されています。このことはFDA、EMAや数か国の関係当局が臨床試験に基づいて科学的情報を改訂し、それによってその薬品が小児に対して有効かつ安全であることを、製薬企業が薬品の表示ラベルに記載することが可能になってきたことを意味します。
JIAに対して承認された医薬品にはメトトレキサートエタネルセプトアダリムマブアバタセプト*、トシリズマブ およびカナキヌマブ*が含まれます。 *現在、日本で小児試験実施中
他にもいくつかの医薬品が小児で試験中あるいは試験されることになっているので、あなたの子どもがそのような試験に参加するよう医師から求められる可能性があります。
その他、JIAに使用することが明確に承認されていない医薬品があります。数種の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、アザチオプリン,*、シクロスポリンアナキンラ および インフリキシマブ などです。これらの医薬品は承認適応外(オフラベル使用)で使用され、他に有効な治療法が無い場合には医師がこれらの医薬品を特別に使用することを提案します。 *日本では難治性リウマチ性疾患に適応あり

治療の順守(アドヒランス)
治療に対するアドヒランスは短期的にも長期的にも健康を維持するためにとても重要です。
治療に対するアドヒランスとは医師が処方した薬剤の治療プログラムに従うことを意味します。これには、定期的な薬剤摂取、所定の診療、定期的理学療法、所定の臨床検査など様々な要素があります。これらの要素は協同して病気と闘い、子供達の体を強め健康に保つための相補的プログラムを作りだします。投薬の頻度と用量は体内の薬物濃度を維持するための必要量によって決定されます。この治療計画に対するアドヒランスの欠如は薬物濃度を無効レベルにまで低下させ、病気の再燃の可能性を高めます。これを避けるために定期的に注射を受け服薬することが重要です。
治療が成功しないことの最も一般的な理由は治療を順守しないことです。医師または医療チームが処方した医療プログラムのすべての項目に対するアドヒランスは寛解のチャンスを増大させます。治療の多様な要素を維持することは時には両親や保護者にとって面倒なことですが、子どもが健康を手に入れる機会を確実に獲得するか否かはあなた方次第です。残念なことに、子どもが成長するにつれて、特にティーンエイジに達すると、アドヒランスの欠如の問題は深刻化します。ティーンエージャーは自分が病人であると認めることを嫌がり、面倒な治療を避けるようになります。その結果、この年代では病気の再燃の頻度が増加します。治療計画の順守は寛解やQOLの改善の機会を保証します。


1. NSAID - 非ステロイド系抗炎症薬

1.1 性状
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は、従来から多くの小児リウマチ性疾患のための主な治療法として使用されています。その役割は依然として重要でありほとんどの小児がNSAIDを処方されています。NSIADは対症療法的な抗炎症、解熱、鎮痛薬です。対症療法的とはそれ自体病気の経過に明らかな影響を与えないことを意味しており、NSAIDの病気の進行に対する効果は成人リウマチ性患者で述べられているように限定的ですが、炎症による症状を抑えます。
NSIADは主にシクロオキシゲナーゼという酵素を阻害して作用します。この酵素は、プロスタグランディン類と呼ばれる炎症を誘発する物質の生成に重要な役割を果たします。これらの物質は胃の保護、腎臓の血流調節など体内で生理的役割を果たしています。このような生理的効果を介してNSAIDの副作用が起こります(下記参照) アスピリンは安価かつ効果的なので以前は広く使われていましたが、現在ではその副作用のためにあまり使われていません。最も良く使用されているNSAIDはナプロキセン、イブプロフェンおよびインドメタシンです。
最近、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害剤として知られる新しい世代のNSAIDが利用可能になりましたが、小児で試験された薬剤は僅かであり(メロキシカムおよびセレコキシブ)、それに加えてこれらの医薬品は小児では広く使用されていません。この種の医薬品は他のNSAIDと同等の治療効果を持ちながら胃に対する副作用は軽度です。COX-2阻害剤は他のNSAIDに比べて高価であり、従来のNSAIDに比べてより効果的であり安全であるかに関する議論の結論は出ていません。小児患者におけるCOX-2阻害剤の経験は限られています。メロキシカムとセレコキシブは小児において有効かつ安全であることが比較試験で証明されています*。異なるNSAIDに対する反応は子どもによって異なります。ですから、あるNSAIDが無効であっても、別のNSAIDが有効であるということはあり得ることです。 *日本では、小児適応なし

1.2 投与量、投与方法
NSAID単剤の効果を評価するためには4 - 6週間の臨床試験が必要です。しかし、NSAIDは疾患修飾薬ではないので(すなわち、病気の経過を修飾できない)、全身的な関節炎に伴う疼痛、こわばりおよび発熱を治療するためによく使用されます。NSAIDは液剤または錠剤として投与することができます。
数種類のNSAIDのみが小児で使用することを承認されています。最も一般的なNSAIDはナプロキセン、イブプロフェン*、インドメタシン、メロキシカムおよびセレコキシブです。 *日本で小児適応のあるNSAIDは、イブプロフェンのみ
ナプロキセン
ナプロキセンは1日用量10 - 20 mg/kgを2回に分けて投与します。
イブプロフェン
イブプロフェンは、一般に、生後6か月から12歳の小児において1日用量30 - 40 mg/kgを3 - 4回に分割して投与します。通常投与範囲下限投与量から開始し徐々に所要量まで 増量します。症状が軽い場合20 mg/kg/dayで治療します。40 mg/kg/dayを越える場合、重篤な有害作用のリスクが増大します。50 mg/kg/dayを越える用量での臨床試験は実施されていないので、これ以上の用量は推奨できません。最大用量は2.4 g/dayです。
インドメタシン
インドメタシンは2 - 14歳の小児において1日用量2 - 3 mg/kgを2 - 4回に分割して投与します。用量は4 mg/kg/day または200 mg/dayを上限として徐々に増量し用量を設定します。
メロキシカム
メロキシカムは2歳以上の小児において0.125 mg/kgを1日1回経口投与します。1日最大用量は7.5 mgです。臨床試験では0.125 mg/kgを越えて増量しても追加的な効果は得られていません。
セレコキシブ
セレコキシブは2歳以上の小児に投与します。体重10 kgから25 kgの小児には50 mgの用量を1日2回経口投与します。25 kgを越える小児には100 mgを1日2回投与します。
他のNSAIDとの相互作用は示されていません。

1.3副作用
NSAIDの忍容性は良好であり副作用は成人に比べて少なくなります。消化管病変が最も一般的な副作用であり、胃粘膜障害を誘発します。症状の程度は服用後の軽度腹部不快感から激しい腹痛や黒い軟便として現れる出血にまで及びます。小児におけるNSAIDの消化管毒性についてはあまり報告されていませんが、一般的には成人でみられるよりもかなり少なくなります。しかし、患者とその家族は胃障害のリスクを最小限に留めるためにNSAID は必ず食後に飲むようにと奨められるはずです。NSAIDによる重篤な消化管合併症の予防のための制酸薬、ヒスタミン-2受容体拮抗薬、ミソプロストールおよびプロトンポンプ阻害剤の小児慢性関節炎患者における有用性は明らかにされておらず、公式の勧告も公表されていません。肝臓に対する副作用は血液中の肝臓酵素値の増加をもたらしますが、アスピリンを除き無視しても構いません。
腎臓関連副作用はまれであり、腎臓、心臓あるいは肝臓の障害を有する小児においてのみみられます。
全身型JIA を有する患者においては、NSAIDは(他の薬剤と同様に)、時には生命を脅かす免疫系の活性化である、マクロファージ活性化症候群を誘発する可能性があります。
NSAIDは血液凝固系に影響を与える可能性がありますが、この反応は既に血液凝固異常を有する小児を除き臨床上重要ではありません。アスピリンは強い凝固障害をもたらす薬物です。この効果は血栓症(血管内の病的血栓の形成)のリスクが増大している病気の治療に利用されています。この場合、低用量のアスピリンが選択されます。インドメタシンは全身型JIAを有する小児における治療抵抗性発熱のコントロールに有用です。

1.4主要な小児リウマチ性疾患適応症
NSAID はすべての小児リウマチ性疾患で使えます*。 *日本で小児適応を有しているNSAIDは、イブプロフェンのみ。


2. シクロスポリンA

2.1 性状
シクロスポリンAは免疫抑制薬であり、当初移植手術を受けた患者の拒否反応を予防するために使用されましたが、今では小児リウマチ性疾患に対しても使用されています。本薬は免疫反応において基本的な役割を果たす一群の白血球に対する強力な阻害薬です。

2.2 投与量、投与方法
シクロスポリンAは液剤または錠剤の形で1日量3 - 5 mg/kgを1日2回投与します。

2.3 副作用
副作用の頻度は特に高用量で高く、その使用を制限することもあります。副作用には腎障害、高血圧、肝障害、歯肉増殖、多毛症、嘔気・嘔吐などがあります。
したがって、シクロスポリンによる治療では定期的な検診や臨床検査が必要となります。小児は自宅で定期的に血圧を測定する必要があります*。 *日本では義務づけられてはいません。

2.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症
マクロファージ活性化症候群* *日本では保険適応は得られていません。

若年性皮膚筋炎* *日本では保険適応は得られていません


3. 静注用免疫グロブリン

3.1 性状
免疫グロブリン(IG)は抗体の同義語です。静注用(IV)免疫グロブリン(IVIG)は健常供血者から得た大量の血漿から調製されます。血漿はヒト血液の液性成分です。IVIGは免疫系の欠陥のために抗体が欠乏している小児を治療するために使用されます。しかし、その作用機序はなお明らかではなく、病気の状況によって機序が異なる可能性があります。IVIGはある種の自己免疫疾患やリウマチ性疾患においても有用です。

3.2 投与量、投与方法
IVIGは静脈内への点滴によって投与されます。投与スケジュールは病態によって異なります。

3.3 副作用
副作用は稀であり、点滴中のアナフィラキシー(アレルギー)反応、筋痛、発熱や頭痛、および点滴約24時間後に起こる無菌性髄膜炎による頭痛や嘔吐などがあります。
これらの副作用は自然に消退します。一部の患者、特に川崎病あるいは低アルブミン血症患者ではIVIG投与によって重症の低血圧を呈する可能性があります。これらの患者については経験豊かなチームによる注意深いモニタリングが必要です。
IVIGにはヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウィルス、その他のほとんどの既知ウィルスは混入していません。

3.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

4. コルチコステロイド

4.1 性状
コルチコステロイドは体内で生成される多くの化学物質(ホルモン)の一群です。同一物質あるいは構造的によく似た物質が合成的に製造され、小児リウマチ性疾患を含む多様な疾患の治療に使用されています。
あなたの子どもさんが投与されるステロイドは運動選手がパフォーマンスを向上させるために使用するステロイドとは異なる物質です。
炎症状態で使用されるステロイドのフルネームはグルココルチコステロイドですが、もう少し短くコルチコステロイドと呼ばれます。これらの薬物は非常に強力で即効性があり、複雑な機序で免疫反応を阻害することにより炎症を抑制します。多くの場合コルチコステロイドは、この薬物と併用される他の治療が作用し始める前に、患者の状態の速やかな臨床的改善を達成するために使われます。
免疫抑制作用や抗炎症作用の他に、コルチコステロイドは、心血管機能、ストレス反応、水・糖・脂質代謝、血圧調節など、体内な様々なプロセスに関与します。
コルチコステロイドは、その治療効果だけでなく、長期投与した場合にはそれなりの副作用を示します。小児を治療する医師がその病気の管理や薬物の副作用軽減についての豊かな経験を持っていることが重要です。

4.2 投与量、投与方法
コルチコステロイドは全身投与(内服または静脈内投与)あるいは局所投与(関節注射または皮膚への塗布、あるいはブドウ膜炎の場合は点眼薬として)で使用できます。
投与量と投与経路は、治療すべき疾患ならびに患者の重症度によって決定されます。高用量、特に注射では、強力かつ速やかに効果を現します。
サイズや含有量が異なる経口錠剤が入手できます。プレドニゾンすなわちプレドニゾロンは最も一般的に使われる薬剤です。
投与量や投与回数に関する一般的に認められているルールはありません。
1日1回投与(多くは朝、2 mg/kg/day [最大量60 mg/day])あるいは隔日投与では、1日投与量の分割投与(症状抑制のためにしばしば必要)に比べて、副作用は少なくなりますが効果も減弱します。重症例では、医師は高用量プレドニゾロンを選択する可能性があります。これは病院内で通常数日間連続して1日1回静脈内に点滴されます(1日量 30 mg/kg以内、最大量1g/day)
経口投与された薬物吸収に問題がある場合には低用量のコルチコステロイドが毎日静注されることがあります。
炎症を起こした関節への持続性コルチコステロイド(デポ剤)の注射は、若年性特発性関節炎における治療選択肢の一つです。コルチコステロイドデポ剤(通常、トリアムシノロン・ヘキサセトニド)は微細結晶上に活性ステロイドを結合させた薬剤であり、関節腔へ投与された後内関節表面に拡散し、長期間コルチコステロイドを放出し、多くの場合長期的な抗炎症効果を発揮します。
効果の持続期間は多様ですが通常は多くの患者において数か月間持続します。治療すべき関節の数や患者の年齢に応じて局所鎮痛(例えば、皮膚麻酔クリームまたはスプレー)、局所麻酔、鎮痛(ミダゾラム、Entonox®)または全身麻酔を併用して、1回の治療セッションで1ヶ所以上の関節を治療します。

4.3 副作用
コルチコステロイドには主に2種類の副作用があります。それは、大量長期投与による副作用と治療中止の結果起こる副作用です。コルチコステロイドを1週間を超えて連続的に投与したのちに中止すると重大な問題が起こるので、投与を突然中止することはできません。これらの問題は体内のステロイド産生が合成薬の投与によって抑制されて低下することにより起こります。コルチコステロイドの効力には、その副作用の重症度と同様に、個体差があり予測は困難です。
通常、コルチコステロイドの副作用は用量と投与方法に関連します。例えば、総投与量が同じであれば、朝1回投与よりも分割投与によってより多くの副作用が起こります。明らかな副作用は体重増加をもたらす空腹感の増強および皮膚線条の出現です。小児にとっては、体重増加を抑制するために脂質や糖分が少なく食物繊維に富むバランスの良い食事を保つことが極めて重要です。顔面のざ瘡は局所皮膚治療で抑えることができます。神経過敏や不安定感による睡眠障害や気分変動障害がよくみられます。長期治療においてはしばしば成長が抑制されます。小児におけるこの重要な副作用を避けるために、医師はコルチコステロイドをできるだけ短期間、最低用量で使用することを好みます。1日用量0.2 mg/kg (すなわち、10 mg/day)未満であれば成長障害を避けることができると考えられます。
感染防御能も変化する可能性があり、免疫抑制の程度によっては感染頻度が増し、重症化するかもしれません。免疫能が抑制された小児では水痘は重篤な経過をたどる可能性があるので、あなたの子どもさんに徴候が現れた場合あるいは子どもさんがその後水痘を発症した人と接触していたことが分かった場合には、直ちに主治医に知らせることが非常に重要です。
患者個人の状態によっては水痘ウィルスに対する抗体あるいは抗ウィルス性抗生物質を投与できます。
大部分の無症候性副作用は、治療中の注意深いモニタリングによって明らかになる可能性があります。そのような副作用には骨の脆弱化を招き骨折しやすくなる骨塩量減少が含まれます(骨粗しょう症)。骨粗しょう症は骨塩量測定と呼ばれる特殊な方法で検出し追跡することができます。カルシウム(1日約1000 mg)とビタミンDの充分な補充が進行抑制に有効であろうと考えられています。
眼科的副作用には白内障と眼圧の上昇(緑内障)があります。血圧上昇(高血圧)が進行する場合には減塩食が重要です。血糖値が上昇しステロイド性糖尿病を起こす可能性があります。この場合低炭水化物・低脂肪食が必要です。
関節内ステロイド投与に伴う副作用の頻度は高くはありませんが、皮膚の局所的萎縮や石灰沈着に伴う薬物溢出のリスクがあります。ステロイド注射による感染のリスクは極めて低いものです(熟練した医師が関節内注射を実施した場合には約10,000人に1人)。

4.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症
コルチコステロイドはすべての小児リウマチ性疾患に使用できます。この薬剤は可能な限り短期間、最低用量で使用されます。


5. アザチオプリン

5.1 性状
アザチオプリンは免疫性を低下させる薬剤です。
アザチオプリンは、すべての細胞が分裂するために必要なプロセスであるDNAの産生を妨害することによって作用します。実際に、アザチオプリンによる免疫機能の阻害はある種の白血球(リンパ球)の増殖に対する作用を介するものです。

5.2 投与量、投与経路
アザチオプリンは1日当たり2 - 3 mg/kg、最大量 150 mg/dayの用量を経口投与します。

5.3  副作用
アザチオプリンの忍容性(軽微な副作用があっても使い続けられること)は通常シクロホスファミドよりも良好ですが、注意深いモニタリングを要する副作用を起こすことがあります。消化管毒性(口腔内潰瘍、嘔気、嘔吐、下痢、上腹部痛)はまれです。まれに肝毒性をもたらすこともあります。循環血中白血球数の減少(白血球減少症)を起こすことがあり、多くの場合用量依存的です。低頻度ですが、血小板や赤血球の減少も起こります。約10%の患者は、潜在的な遺伝子異常(遺伝的多型性としても知られるチオプリンメチルトランスフェラーゼ [TPMT]の部分的欠乏)による血液学的副作用(白血球、血小板あるいは赤血球の減少)の高いリスクを有しています。この異常は治療開始前に検査でき、血球数のコントロールは治療開始7 - 10日後そしてその後1 – 2ヶ月おきに実施します。
理論的にはアザチオプリンの長期使用は癌のリスクを増加させますが、今のところ結論的なエビデンスは得られていません。
他の免疫抑制薬と同様に、本薬による治療は感染リスクを増加させ、特に帯状疱疹はアザチオプリンで治療された患者で高頻度にみられます。

5.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

6. シクロホスファミド

6.1 性状
シクロホスファミドは炎症や免疫系を抑制する免疫抑制薬です。本剤はDNA合成を修飾し細胞の複製を妨害することによって作用を発現するので、その効果は非常に活発に増殖する血液細胞、毛髪および消化管の上皮細胞のような細胞で強く現れます(細胞は複製するために新しいDNAを必要とします)。 リンパ球として知られる白血球は最も強くシクロホスファミドの影響を受け、その機能の低下や数の減少は免疫反応の抑制をもたらします。シクロホスファミドはある種のガンの治療薬として導入されてきました。リウマチ性疾患においては、間欠治療法として使用され、ガン患者よりも副作用は少なくなります。

6.2 投与量、投与経路
シクロホスファミドは経口投与(1 – 2 mg/kg/day)、あるいはより多い場合は静脈内投与(通常0.5 – 1.0 g/m2量のパルス投与を1ヶ月毎に6ヶ月間実施後3ヶ月毎に2回実施、あるいは500 mg/m2のパルスを2週間毎に6回静脈内点滴投与で実施)で使用します。

6.3 副作用
シクロホスファミドは免疫性を大きく低下させるので、臨床検査による注意深いモニタリングが必要ないくつかの副作用があります。最も一般的な副作用は嘔気・嘔吐です。また、可逆的な脱毛が起こります。
血液中の白血球数および血小板数が過剰に減少する場合があるので、投与量の調節あるいは一時的な休薬が必要となる可能性があります。
膀胱粘膜の異常(血尿)が起こる可能性があり、月1回の静注よりも連日経口投与で起こりやすくなります。この副作用は水を沢山飲むことによって避けることができます。静注後、体内のシクロホスファミドを排出するために大量の輸液が投与されます。長期投与は生殖障害を起こす恐れがあり、癌の発生頻度を増加させます。これらの副作用のリスクは数年にわたって患者が摂取した本薬剤の累積量に依存します。
シクロホスファミドは免疫防御能を低下させるので、特に大量のコルチコステロイドなど免疫を抑制する他の薬剤と併用した場合には、感染のリスクを増加させます。

6.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

7. メトトレキサート

7.1 性状
メトトレキサートは、長年いくつかの小児リウマチ性疾患に罹患している小児に使用される薬剤です。本薬は、細胞分裂(増殖)の速度を低下させるので、当初抗癌剤として開発されました。
それにもかかわらず、本薬の抗癌効果は高用量でのみみられます。リウマチ性疾患で使用される低用量間欠投与では、メトトレキサートは他の機序を介して抗炎症効果を達成します。そのような低用量では、高用量で見られた副作用の大部分は起こらないかあるいは容易に監視し管理することができます。

7.2 投与量、投与経路
メトトレキサートには錠剤と注射液剤の二つの主な剤形があります。毎週同じ日に週に1回のみ投与します。常用量は1週間当たり10 – 15 mg/m2(通常最大量は 20 mg/週)です。メトトレキサート投与24時間後に葉酸またはフォリン酸を投与することによりある種の副作用の発生頻度は低下します。
投与量と同様に投与経路も患者個人の状態に応じて医師が選択します。
錠剤は食前に、望ましくは水とともに、摂取すると良く吸収されます。注射剤は、糖尿病のためのインスリンと同様に、皮下に投与されますが、筋肉内やまれには静脈内に投与されることもあります。
注射剤の長所は吸収が良く胃の不調の発生頻度が少ないことです。メトトレキサートによる治療は通常数年間の長期間に及びます。ほとんどの医師は病気が寛解したのち少なくとも6 – 12ヶ月間治療を継続するよう推奨しています。

7.3 副作用
ほとんどの小児では、メトトレキサートの副作用はわずかであり嘔気や胃の不調などがあります。これらの副作用は夜に投与することで対処できます。副作用を予防するために多くの場合ビタミンの一種である葉酸が処方されます。
メトトレキサート投与前後に乗り物酔い防止薬を使用すること、あるいは注射剤に変えることがこれらの副作用の防止に役立つことがあります。副作用としては他に口腔内潰瘍や頻度は少ないものの皮疹があります。空咳と呼吸障害は小児でまれに見られます。血球数に対する副作用は発現しても通常軽度です。小児では、アルコール摂取のような他の肝障害因子が存在しないので、慢性肝障害(肝硬変)はごくまれです。
メトトレキサート療法が中断されるのは、肝酵素レベルの上昇した場合が殆どですが、正常に戻れば再開されます。したがって、定期的な血液検査が必要です。通常、メトトレキサート投与中の小児で感染リスクが増加することはありません。
あなたの子どもさんがティーンエージャーであれば、他に配慮すべきことがあります。アルコール摂取は、メトトレキセートの肝毒性を増強するので厳禁です。本薬は胎児に有害である可能性があるので、青年期となり性的活動性が高まれば避妊対策が重要です。

7.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

8. レフルノミド

8.1 性状
レフルノミドはメトトレキサートが無効か、あるいは副作用で使えない患者のための代替薬です。しかし、小児関節炎における本薬の使用経験は乏しく、JIAに対する使用は規制当局から承認されていません。

8.2 投与量、投与経路
体重20 kg未満の小児は初日に100 mgのレフルノミドを服用し以後1日おきに10 mgの維持量を服用します。体重20 – 40 kgの小児は最初の2日間100 mg/dayを服用し以後毎日10 mgの維持量を服用します。40 kgを超える小児は最初の3日間100 mg/dayを服用し以後毎日20 mgの維持量を服用します。
レフルノミドは催奇形性があるので、妊娠可能な若い女性は本薬による治療を開始する前に検査して妊娠していないことを確認し、適切な避妊措置を講じなければなりません。

8.3 副作用
下痢、嘔気、嘔吐が主な副作用です。副作用が発現した場合、医学的管理下でコレスチラミンによる治療を要します。

8.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症
若年性特発性関節炎 * *若年性特発性関節炎に対する本薬の使用は米国でも日本でも承認されていない。


9. ヒドロキシクロロキン

9.1 性状
ヒドロキシクロロキンは元々マラリアの治療のために使用されました。本薬は炎症のいくつかの過程を阻害することが示されています。

9.2 投与量、投与経路
ヒドロキシクロロキンは錠剤として1日当たり 7 mg/kg以下の用量を毎日食事または牛乳と一緒に服用します。

9.3 副作用
ヒドロキシクロロキンの忍容性(軽微な副作用でも使い続けられること)は通常良好です。消化管系の副作用、主に嘔気が起こることがありますが重症ではありません。重要な懸念は眼毒性です。ヒドロキシクロロキンは網膜と呼ばれる眼の組織に蓄積し休薬後も長期間滞留します。
この異常の発生はまれですが、投薬を止めたのちでさえも失明に至る可能性があります。しかし、現在使用されている低用量ではこの副作用は極めてまれです。
早期に発見し休薬すればこの合併症を予防できます。したがって定期的な眼検査が必要とされていますが、リウマチ性疾患の治療のために低用量を投与する場合のこのような検査の必要性とその頻度については議論のあるところです*。 *日本では定期的な眼科検査が義務付けられています。

9.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

10. スルファサラジン

10.1 性状
スルファサラジンは抗菌薬と抗炎症薬との組み合わせから生まれました。本薬は以前リウマチ性関節炎が感染症であると考えられていたころに考案されました。この理論はその後誤りであることが分かりましたが、スルファサラジンは、慢性消化管炎症を特徴とする一群の病気と同様に、ある種の関節炎にも有効であることが示されています。

10.2 投与量、投与経路
スルファサラジンは1日当たり50 mg/kg、最大 量2 g/dayを経口投与します。

10.3 副作用
副作用は稀ではないので、定期的な血液検査が必要です。副作用には消化管障害(食欲不振、嘔気、嘔吐および下痢)、皮疹を伴うアレルギー、肝障害(トランスアミナーゼ値の上昇)、循環血中の血球減少および免疫グロブリン値の低下などがあります。
本薬は病気の再燃あるいはマクロファージ活性化症候群を惹起するので、決して全身型JIA や若年性全身性 エリテマトーデス 患者に投与すべきではありません。

10.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症
若年性特発性関節炎 *(主に腱付着部炎関連JIA) *日本では、保険適応なし。


11. コルヒチン

11.1 性状
コルヒチンは何世紀も前から知られた薬剤であり、ユリ科の顕花植物であるイヌサフランの乾燥種子に由来します。コルヒチンは白血球数を減少させその機能を阻害して炎症を抑えます。

11.2 投与量、投与経路
コルヒチンは通常1日あたり1 – 1.5 mgを経口投与します。さらに高用量(1日2 または2.5 mg)が必要な場合もあります。治療抵抗例ではごくまれに静脈内に投与されます。

11.3 副作用
大部分の副作用は消化器系に関連します。下痢、嘔気、嘔吐および時々見られる腹部痙攣は乳糖非含有食で改善することがあります。通常、これらの副作用は用量低減によって軽快します。
これらの症状が消失したのち、用量を徐々に元のレベルまで増量することも可能です。血球減少が起こることもあるので、定期的な血球数の管理が必要です。
腎障害や肝障害を有する患者では筋力低下(ミオパシー)が起こる可能性があります。これは休薬後速やかに回復します。
もうひとつのまれな副作用は末梢神経の異常(神経障害)です。これは回復の遅い副作用です。時に皮疹や脱毛症がみられます。
本薬を大量摂取したのち重篤な中毒が起こる可能性があります。コルヒチン中毒の治療には医療的介入が必要です。通常徐々に回復しますが、過量摂取は死に至ることもあります。両親は本薬を幼児の手の届かないところに置くよう十分留意すべきです。家族性地中海熱のコルヒチン療法は医師と相談しながら妊娠期間中持続できる場合もあります。

11.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症
家族性地中海熱* 日本では、現在保険適応を申請中
再発性心膜炎などのある種の自己炎症性疾患


12. ミコフェノール酸モフェチル

12.1 性状
ある種の小児リウマチ性疾患では免疫の一部が過剰に活性化されています。ミコフェノール酸モフェチルはBリンパ球およびTリンパ球(免疫担当白血球)の増殖を阻害します。つまり、本薬はある種の免疫活性細胞の発達速度を低下させます。したがって、本薬の効果はこの阻害によるものであり数週間後に効き始めます。

12.2 投与用量、投与経路
ミコフェノール酸モフェチルは錠剤または溶液用の粉末として1日1~3gを投与します。食事摂取は本薬の吸収を低下させるので、本薬は食間に服用するように推奨されています。飲み忘れた場合、次の投与機会に2回分を服用すべきではありません。本製品は密閉して元々のパッケージに保存してください。理想的には、同一日の異なる時間に数回血液を採取し薬物濃度を測定すべきです。これによって各患者における適切な用量調整が可能になります。

12.3 副作用
最も一般的な副作用は腹部不快感であり、10 – 30%の患者において特に治療開始時にみられます。下痢、嘔気、嘔吐あるいは便秘が起こることがあります。これらの症状が持続する場合には、用量低減あるいは同種製品(myfortic、ミコフェノール酸ナトリウム)への変更も考慮されます。本薬は白血球や血小板の減少をもたらす可能性があるので、毎月検査すべきです。これらの血球減少が起こった場合には一時休薬すべきです。
本薬は感染リスクを増加する可能性があります。免疫系を抑制する薬剤は生ワクチンに対する異常反応を起こすことがあります。したがって、あなたの子どもさんに生ワクチン(例えば、麻疹ワクチン)を接種すべきではありません。ワクチン接種する前や海外へ旅行する前には医師に相談してください。ミコフェノール酸モフェチルで治療中は妊娠を避けるべきです。
起こりうる副作用を発見しそれに対応するために、毎月の定期的な診療および血液や尿の検査が必要です。

12.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症

13. 生物学的製剤

ここ数年の間に、生物学的製剤と呼ばれる物質とともに新しい考え方が導入されました。医師はこの用語を生物工学によって製造された薬剤に用いますが、これらの薬剤は、メトトレキサートレフルノミド とは異なり、主に特定の分子(腫瘍壊死因子すなわちTNF、インターロイキン1または6、T細胞受容体アンタゴニスト)を標的として働きます。生物学的製剤はJIAに典型的な免疫過程を遮断する重要な手段であると認められています。現在数種の生物学的製剤があり、そのほとんどがJIA に対して特別に使用を承認されています。
生物学的製剤はすべて非常に高価です。バイオシミラー(バイオ後発品)が開発されてきており、それによって特許失効後に低価格で同種薬品を入手することができるかもしれません。
一般に、すべての生物学的製剤は感染リスクの増加を伴います。したがって、患者(保護者)に対する情報やワクチン接種のような予防対策を強く要求することが重要です(弱毒化生ワクチンは治療開始前にのみ接種可能ですが、他のワクチンは治療中も接種できます)。生物学的製剤による治療を考慮している患者は結核の検査(ツベルクリン検査または精製ツベルクリン検査)も必須です。一般に、感染症が発症した場合には少なくとも一時的に生物学的製剤を中止すべきです。しかし休薬については個々の状況に基づいて必ず医師と相談してください。
腫瘍との関連可能性については「抗TNF薬」の項を参照
妊娠中の生物学的製剤の使用に関する情報は限られていますが、一般には休薬をお奨めします。この場合にも個々の状況に基づいて判断してください。
生物学的製剤の使用に伴うリスクは抗TNF療法の項で述べるものと同様ですが、まだ治療した患者数は少なく、観察期間も短いので、結論するのは早計です。一部の患者におけるマクロファージ活性化症候群のようなある種の合併症は、治療自体よりも基礎疾患(マクロファージ活性化症候群に関してはJIA)に関連すると思われます。休薬の原因となる注射時疼痛は主にアナキンラ で、アナフィラキシー反応は主として静脈内投与で起こります。

13.1 抗TNF薬
抗TNF薬は選択的に炎症過程の必須メディエータであるTNFの作用を阻害します。抗TNF薬は単独でまたはメトトレキサートとの併用で使用され、ほとんどの患者で有効です。その効果は速やかに発現し安全性は少なくとも2~3年は良好であることが示されています(下記の「安全性」の項を参照)。しかし、潜在的な長期副作用を立証するためにさらに長いフォローアップが必要です。数種類の抗TNF薬を含め、JIAのための生物学的製剤は最も広く使用されており、使用法や投与頻度は多種多様です。エタネルセプトは週2回皮下に、アダリムマブは2週間毎に皮下に投与され、そしてインフリキシマブ*は月に1回静脈内に点滴されます。その他の薬剤(例えば、ゴリムマブ*やセトリズマブ・ペゴル*)は研究中です。*日本では、小児に対する保険適応はありません。
一般に、抗TNF薬は、全身型JIAを除く大部分のJIAに適用されます。全身型JIAに対しては、抗IL-1薬(アナキンラおよびカナキヌマブや抗IL-6薬(トシリズマブ)のような他の生物学的製剤が通常使用されます。通常、持続性少関節炎は生物学的製剤で治療されません。他の第二選択薬と同様に、生物学的製剤も厳格な医学的管理の下に投与しなければなりません。
すべての薬剤は投与されている限り持続する強力な抗炎症作用を示します。主な副作用は、特に結核に対する、易感染性の亢進です。
重篤感染を示すエビデンスがあれば休薬すべきです。稀な例では、抗TNF薬による治療が関節炎以外の自己免疫疾患を伴うことも報告されています。これらの薬剤による治療が小児癌の発症率を高める可能性を示すエビデンスは得られていません。
数年前に、米国食品医薬品局はこれらの薬物の長期間使用に関連する腫瘍(特にリンパ腫)の増加の可能性について警告を発しました。このリスクが現実であるとの科学的エビデンスはありませんが、(成人におけると同様に)自己免疫疾患自体が悪性腫瘍の発生率を若干高めることが示唆されています。これらの薬剤の使用に伴うリスクと便益について、ご家族は医師と話し合うことが重要です。
抗TNF薬に関する経験は浅いので、真の長期安全性データはなお不足しています。次項では現在入手可能な抗TNF薬について説明します。

13.1.1 エタネルセプト
性状 エタネルセプトはTNF受容体遮断薬、すなわちTNFと炎症細胞上に存在するその受容体との結合を妨害する薬剤であり、それによって若年性特発性関節炎の基盤となる炎症過程を遮断あるいは抑制します。
投与量、投与方法: エタネルセプトは毎週(0.8 mg/kg、最大量50 mg/週)*あるいは週2回(0.4 mg/kg、最大量25 mg x 2回/週)を皮下投与します。患者ならびに家族は注射剤の自己投与について指導を受けることができます。 *小児に対する週1回投与は日本では認められていません。
副作用: 注射部位の局所反応(赤い斑点、かゆみ、腫脹)が起こることがありますが、通常症状は短期間であり中強度です。
12.4 主要な小児リウマチ性疾患適応症: メトトレキサートなどの他剤が奏効しない小児における多関節発症型の若年性特発性関節炎。また、JIAに随伴するブドウ膜炎で、メトトレキサートあるいは局所ステロイド療法で効果不十分な例の治療として(現時点で明確なエビデンスはないものの)使用されています。

13.1.2 インフリキシマブ
性状: インフリキシマブはキメラ型(本薬の一部分がマウスタンパクに由来する)モノクローナル抗体です。モノクローナル抗体はTNFに結合して若年性特発性関節炎の基盤となる炎症過程を遮断あるいは抑制します。
投与量、投与方法: インフリキシマブは通常8週間毎に(一回当たり6 mg/kgを点滴)院内で静脈内に投与され、また副作用を低減するためにメトトレキサートと併用されます。
副作用: 点滴中にアレルギー反応が起こることがあり、その症状は容易に治療可能な軽度の反応(息切れ、発疹、痒み)から低血圧(血圧の低下)およびショックのリスクを伴う重篤なアレルギー症状にまで及びます。これらのアレルギー反応は初回点滴時に多く、これは分子内のマウス由来の部分に対する免疫感作に起因します。アレルギー反応を発症した場合には休薬します。低用量投与(1回当たり3 mg/kgの点滴)は有効ですが、通常有害作用の頻度は増加し、重篤になることもあります。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: インフリキシマブの若年性特発性関節炎に対する使用は承認されておらず、オフラベルで使用されています(薬品ラベル上に若年性特発性関節炎に対する適応は表示されていません)。

13.1.3 アダリムマブ
性状: アダリムマブはヒト化モノクローナル抗体です。モノクローナル抗体はTNFに結合して若年性特発性関節炎の基盤となる炎症過程を遮断あるいは抑制します。
投与量、投与方法: 本薬は2週毎に皮下投与します(1回当たり24 mg/m2、最大量 40 mg/回)。通常、メトトレキサート と併用します。
副作用: 注射部位の局所反応(赤い斑点、かゆみ、腫脹)が起こることがありますが、通常症状は短期間であり中強度です。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: メトトレキサートなどの他剤が奏効しない、多発性関節炎が持続する若年性特発性関節炎。また、JIAに随伴するブドウ膜炎で、メトトレキサートあるいは局所ステロイド療法で効果不十分な例の治療として(現時点で明確なエビデンスはないものの)使用されています。

13.2 その他の生物学的製剤
13.2.1 アバタセプト
性状: アバタセプトはTリンパ球と呼ばれる白血球の活性化に重要な分子(CTL4lg)を標的とする独特の作用機序を有する薬剤です。現在、本薬はメトトレキサート あるいは他の生物学的製剤が奏功しない多発性関節炎を有する小児の治療に使用できます。
投与量、投与方法: アバタセプトは毎月1回院内で静脈内に投与され(一回当たり6 mg/kgを点滴)、また副作用を軽減するためにメトトレキセートと併用されます。同じ適応症でアバタセプトの皮下投与に関する臨床試験が実施されています。
副作用: 現在までに重大な副作用は観察されていません。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: メトトレキセートあるいは抗TNF薬などの他剤が奏効しなかった小児における多関節発症型の若年性特発性関節炎 * *日本では、現在臨床試験を実施中。

13.2.2 アナキンラ
性状: アナキンラは天然分子(IL-1受容体アンタゴニスト)の遺伝子組み換えバージョンであり、IL-1の作用を抑制して炎症過程、特に全身的な若年性特発性関節炎およびクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)のような自己免疫疾患における炎症過程を阻害します。
投与量、投与方法: アナキンラは全身型若年性特発性関節炎患者に毎日皮下投与します(通常 1 – 2 mg/kg、低体重の小児では最大5 mg/kg、稀には毎日100 mg以上を点滴)。
副作用: 注射部位の局所反応(赤い斑点、かゆみ、腫脹)が起こることがありますが、通常症状は短期間であり中強度です。まれに治療中に重度の有害作用が発生します。これらにはJIA患者におけるある種の重症感染症(肝炎の数例)、およびマクロファージ活性化症候群の数例が含まれます。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: アナキンラはクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)を有する2歳以後の患者に適応を持っています*。本薬はコルチコステロイド 依存性の全身型若年性特発性関節炎*や他のある種の自己免疫疾患患者*において、しばしば、オフラベルで使用されます。 日本では、成人・小児とも保険適応なし。

13.2.3 カナキヌマブ
性状: インターロイキン-1 (IL-1)と呼ばれる分子に特異的な第2世代モノクローナル抗体であり、炎症過程、特に全身的な若年性特発性関節炎およびクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)のような自己免疫疾患における炎症過程を阻害します。
投与量、投与方法: 全身型若年性特発性関節炎患者では、毎月皮下投与します(投与ごとに4 mg/kg)。 *CAPSでは、体重40kg以下の患者には1回2mg/kgを、体重40kgを超える患者には1回150mgを8週毎に皮下投与します。また、十分な臨床的効果(皮疹及び炎症症状の緩解)がみられない場合には適宜漸増しますが、1回最高用量は8mg/kg(体重40kg以下)または600mg(体重40kg超える者)です。
副作用: 注射部位の局所反応(赤い斑点、かゆみ、腫脹)が起こることがありますが、通常症状は短期間であり中強度です。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: 最近コルチコステロイド依存性の全身型若年性特発性関節炎患者*およびクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)を有する小児。 *日本では、現在小児臨床試験を実施中。

13.2.4 トシリズマブ
性状: トシリズマブはインターロイキン-6(IL-6)と呼ばれる分子の受容体に対する特異的モノクローナル抗体であり、特に若年性特発性全身型関節炎における、炎症過程を阻害します。
投与量、投与方法: トシリズマブは病院内で静脈内投与されます。全身型JIAでは15日毎(日本では14日毎)に投与し、投与量は体重30 kg超では8 mg/kg、30 kg未満では12 mg/kg)*。通常メトトレキサート またはコルチコステロイドと併用します。多関節型JIAでは、トシリズマブは4週毎に投与します(体重30 kg超では8 mg/kg、30kg未満では10 mg/kg) *。 *日本での投与量はいずれの体重でも1回8mg/kg。
副作用: 一般的なアレルギー反応が起こることがあります。治療に伴う他の重症有害作用はまれであり、JIA患者におけるある種の重症感染症(肝炎の数例)、およびマクロファージ活性化症候群の数例が含まれます。時に脂質レベルの変化、肝酵素(トランスアミナーゼ)の異常および血小板や白血球減少が観察されます。
主要な小児リウマチ性疾患適応症: 本薬については、現在、コルチコステロイド依存性の全身型若年性特発性関節炎患者およびメトトレキサートなどの他剤が奏功しなかった多関節型若年性特発性関節炎を有する小児における使用が承認されています。

13.3 入手可能な、あるいは研究中のその他の生物学的製剤
その他に、リロナセプト(抗IL-1皮下注射剤)*、リツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体静脈点滴注射剤)**、トファシチニブ(JAK-3阻害剤、錠剤)**などが、ある種の成人リウマチ性疾患には使用されていますが、小児ではこれらの薬剤の効果と安全性を評価する研究が進行中あるいは2 - 3年後に開始予定です。したがって、現時点では、これら薬剤の小児使用に関する情報は限られています。 日本では、*成人・小児とも保険適応なし、**小児では保険適応なし。


14. 開発中の新薬

製薬会社、および小児リウマチ国際試験期間(PRINTO)や小児リウマチ協同研究(PRCSG, www.Prscg.org)に所属する臨床研究者によって新薬が開発中です。PRINTOとPRCSGはプロトコルや症例報告書式の改訂、データ収集、データ解析および医学文献へのデータ報告に関与します。
あなたの主治医がある新薬を処方するためには、その前に臨床試験においてその薬の患者における安全性を慎重に評価しその効果を立証しなければなりません。一般に、小児薬の開発は成人における開発後に行われるので、現時点では一部の薬剤は成人用のみに対して使用できます。使用可能な薬剤の種類が増えるにつれて、オフラベル使用の頻度は減少するはずです。臨床試験に参加することによって新薬の開発に役立つことができます。
詳細については以下のウェブサイトを参照してください:
PRINTO www.printo.it www.printo.it/pediatric-rheumatology/
PRCSG www.prcsg.org
進行中の臨床試験:
www.clinicaltrialsregister.eu/
www.clinicaltrials.gov
欧州において同意された小児のための新薬開発計画:
www.ema.europa.eu/ema/index.jsp?curl=pages/ medicines/landing/pip_search.jsp&mid=WC0b01ac058001d129
小児使用が承認されている薬剤(欧米における):
www.ema.europa.eu
http://labels.fda.gov http://labels.fda.gov


 
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