1.1どんな病気ですか?
全身性エリテマトーデス(SLE)は、特に皮膚、関節、血液、腎臓、および中枢神経系などの様々な臓器に影響を及ぼす慢性自己免疫疾患です。「慢性」とは、長期間持続することを意味します。「自己免疫」とは、免疫系免疫系が細菌やウイルスから体を守るのではなく、患者さん自身の組織を攻撃してしてしまうことを意味します。
「全身性(ループス)エリテマトーデス」という名前は、20世紀前半につけられました。「全身性」とは、体の多くの臓器に影響を及ぼすことを意味します。「ループス」とは、「狼」というラテンの語に由来し、蝶々と似た形の特徴的な顔の皮疹が、オオカミの顔の白い模様と似ていることを表しています。ギリシャ語の「エリテマトーデス」とは、「赤」を意味しており、赤い皮疹を表しています。
1.2よくある病気ですか?
SLEは世界中で知られています。この病気は、特にアフリカ人、スペイン人、アジア人、およびアメリカ原住民に多く発症します。ヨーロッパにおいて、SLEは約2500人に1人の割合で診断されており、すべての患者さんのうち約15%は18歳以前に診断されています。SLEの発症は、5歳以前は稀で、思春期以前は少ないです。18歳以前にSLEを発症した場合、医師は小児SLE、若年性SLE、および小児期発症SLEという病名を用います。
出産適齢期(15歳から45歳)の女性に最もよく発症します。この特定の年齢層では、女性と男性の比率は9:1です。思春期以前では、男性の比率がより高くなり、SLEの約5人中1人は男性です。
1.3 原因は何ですか?
SLEは感染する病気ではありません。自己免疫疾患であり、免疫系が異物と自分自身の組織・細胞を区別する能力を失っている状態です。免疫系は異物の中で間違って自己抗体を産生します。自己抗体は自分自身の正常な細胞を異物として認識して攻撃します。その結果、自己免疫反応により、特定の臓器(関節、腎臓、皮膚など)に炎症を起こします。炎症が起こることは、攻撃を受けた体の部分が熱く、赤く、腫れ、時に痛みを伴うことを意味します。もし、炎症の徴候が長く続き、それがSLEによるものであれば、組織は障害されて正常な機能を失うかもしれません。よって、SLEの治療は炎症を減らすことを目的とします。
様々な環境要因と複数の遺伝要因の組み合わせが、この異常な免疫応答の原因と考えられます。SLEは様々な因子、例えば、思春期のホルモンバランスの乱れ、ストレス、および環境要因(日光暴露、ウイルス感染、および薬物(イソニアジド、ヒドララジン、プロカインアミド、抗けいれん薬))によって引き起こされる可能性があります。。
1.4 遺伝しますか?
SLEは家族内で発症する可能性があります。子ども達は何らかの未知の遺伝要因を親から受け継ぎ、それがSLEの発症素因になっているのかもしれません。また、子ども達がたとえ必ずしもSLEを発症するように運命づけられていなくても、SLEになりやすいかもしれません。例えば、一卵性双生児において、1人がSLEと診断される場合、もう1人がSLEになる確率は50%程度です。SLEにおいては、遺伝子検査または出生前診断がありません。
1.5 予防できますか?
SLEは予防することができません。しかし、SLEの発症誘引や増悪因子との接触は避けるべきです(例えば、日焼け止めなしでの日光暴露、ウイルス感染、ストレス、ホルモン剤、および特定の薬剤など)。
1.6 伝染しますか?
SLEは伝染しません。これは、SLEが人から人にうつることはないことを意味します。
1.7 主な症状は何ですか?
SLEは新たな症状とともに、数週間から数か月、時には数年をかけて、ゆっくり出現してくる可能性があります。疲労や倦怠感などの非特異的な訴えは、小児SLEで最もよくみられる初期症状です。SLEの多くの小児では、間欠的あるいは持続的な発熱や、体重減少と食欲低下を認めます。
経過とともに、多くの小児で1つあるいは2〜3つの臓器病変による特徴的な症状が出現します。皮膚と粘膜病変は最も良くある症状で、種々の皮疹、日光過敏症(日光の当たった場所に皮疹が出現します)、鼻や口の中の潰瘍がみられます。鼻を横断して両頬に出現する典型的な「蝶形」紅斑は、子ども達の1/3ないし1/2に認められます。時に脱毛の増加(脱毛症)に気付くこともあります。寒さにさらされると、手が、赤、白、そして青くなります(レイノー現象)。関節の腫脹とこわばり、筋肉痛、貧血、あざ、頭痛、けいれん、胸痛などの症状を認めることもあります。腎炎は、ほとんどのSLEの子ども達において存在し、この病気の長期予後に大きく関わってきます。
最もよく知られている腎炎の主要症状は、高血圧、蛋白尿、血尿、および浮腫(特に下肢と眼瞼)です。
1.8 病気は子どもで違いますか?
SLEの症状は個々で大きく異なります。上記の症状の全ては、SLEの初期でも経過中のどのタイミングでも起こり、その程度もさまざまです。専門医から処方される薬を服用することで、SLEの症状をコントロールしやすくなります。
1.9 子どもと大人で違いはありますか?
子どもと思春期のSLEの症状は、成人のSLEと同じです。しかし、子どもでは、常にSLEによるいくつかの炎症徴候を認めやすいなど、より重症の経過をとります。また、子どもではSLEの腎臓病変や脳の病変を成人より多く認めます。
2.1 どう診断するのですか?
SLEは、他の病気を除外した後に、症状(例えば痛み)、徴候(例えば発熱)、それに血液と尿検査を組合せて診断されます。すべての症状と徴候は、ある決まった時期にみられるわけではないので、すぐにSLEと診断することは困難です。SLEと他の病気を区別するために、米国リウマチ学会の医師達は、SLEを示唆する11の特徴を組合せた基準を確立しました。
これらの項目は、SLEの患者さんに多く認める症状や異常を反映しています。SLEと正式に診断するためには、以下に示す11の特徴のうち4つ以上を認めなければなりません(発症後のどのタイミングでもかまいません)。しかし熟練した医師であれば、たとえ4つ未満であってもSLEの診断をすることができます。基準は以下の通りです。
蝶形紅斑
赤い皮疹で、鼻根をまたいで両頬に出現します。
日光過敏症
日光過敏症は日光に対する過剰な皮膚反応です。衣類によって保護される皮膚には通常みられません。
円板状皮疹
うろこ状に隆起した貨幣状の皮疹で、顔、頭、耳、胸や腕に現れます。この皮疹は治癒して、瘢痕を残すこともあります。円板状皮疹は、他の人種と比べ、黒人の小児によくみられます。
粘膜潰瘍
口または鼻に起こる小さなただれです。痛みは通常ありませんが、鼻の潰瘍は鼻出血を起こすことがあります。
関節炎
関節炎は、大多数のSLEの子どもの手、手首、肘、膝などの四肢の関節に痛みと腫れを起こします。関節痛は移動性のことがあり、ある関節から別の関節に痛みが移動します。また、左右対称に同じ関節に起こることもあります。通常、SLEの関節炎は永続的な変化(変形)を起こしません。
漿膜炎
胸膜炎は胸膜(肺を包む膜)の炎症で、心外膜炎は心嚢(心臓を包む膜)の炎症です。これらの繊細な組織に起こった炎症は、心臓や肺の周りに液体貯留を起こします。胸膜炎は、呼吸時に増強するといった特有の胸痛を生じます。
腎炎
腎炎は、ほぼすべてのSLEの子ども達において、軽症から重症まで幅広く認めます。病初期には通常は無症状で、尿検査と血液の腎機能検査でのみ異常が見つかることがあります。ある程度の腎病変がある小児では、蛋白尿や血尿を認め、特に下肢にむくみを認めることがあります。
神経学的病変
中枢神経系に病変があると、頭痛、けいれん、それに注意集中や記憶困難、気分変化、うつ病や精神病などの神経精神症状(思考や行動障害を伴う深刻な精神状態)を認めます。
血液学的異常
この異常は、血球を攻撃する自己抗体に起因します。赤血球(肺から体へ酸素を運ぶ細胞)の破壊は溶血と呼ばれ、溶血性貧血を起こすことがあります。この溶血は、進行が遅く軽症の場合から、進行が速く救急対応が必要な場合まであります。
白血球数の減少は、白血球減少症と呼ばれており、通常SLEでは危険性はありません。
血小板数の減少は、血小板減少症と呼ばれています。血小板減少がある子どもは、皮膚に出血しやすく、体の様々な部位(例えば、消化管、尿路、子宮や脳など)に出血を認めることがあります。
免疫学的異常
この異常は、SLEを示唆する血液中の自己抗体と関連しています。
a) 抗リン脂質抗体(付録1)
b) 抗DNA抗体(細胞内の遺伝物質に対する自己抗体)。
主にSLEで陽性になります。活動性のあるSLEでは、抗DNA抗体量が増加するので、医師が疾患活動性の程度を評価するため、繰り返し検査されます。
c) 抗Sm抗体
Smはこの抗体が発見された初めての患者(Smithさん)の名前に由来します。この自己抗体は、ほぼSLEだけに認めるため、診断確定に役立ちます。
抗核抗体
これは、細胞核に対する自己抗体です。この抗体は、ほぼすべてのSLE患者さんの血液で陽性になります。しかし、他の病気でも陽性になることがあり、また、健康な子ども達の約5-15%は弱陽性であり、抗核抗体が陽性であることが、SLEの証明にはなりません。
2.2 重要な検査は何ですか?
血液検査は、SLEを診断する手助けになり、臓器障害の有無を確認することができます。定期的な血液・尿検査は、病気の活動性と重症度を監視し、治療が安全に行われているか決めるために重要です。SLEの診断、処方薬の決定、現在の治療がSLEの炎症を良好にコントロールしているかなど、評価に役立ついくつかの検査項目があります。
通常の臨床検査では、多臓器病変を伴う活動性全身性疾患の存在を確認します。
赤血球沈降速度(赤沈)とC反応性蛋白(CRP)は、ともに炎症で上昇します。SLEにおいては、CRPは一般に正常値ですが、赤沈は上昇します。CRPの上昇は、感染症を合併している可能性があります。
末梢血検査からは、貧血、血小板減少、および白血球減少の存在がわかります。
血清蛋白の電気泳動からは、ガンマグロブリンの増加(炎症と自己抗体産生の増加)がわかります。
アルブミン値の低下は、腎炎の存在を示唆します。
通常の生化学検査からは、腎炎(血清尿素窒素とクレアチニンの増加、電解質濃度の変化)、肝機能異常(肝逸脱酵素の増加)、および筋病変(筋酵素の増加)がわかります。
肝臓や筋肉に病変が存在すれば、これらの酵素値は上昇します。
尿検査は、SLEの診断と経過観察中の腎炎の評価にとても重要です。血尿や蛋白尿の存在は、腎炎の様々な指標になります。SLEの子ども達に24時間蓄尿をしてもらうことがあります。この方法により、腎病変を早期に発見できる可能性があります。
補体は自然免疫系の一部です。特定の補体(C3とC4)は、免疫反応によって消費されます。C3とC4の低下は病気(特に腎炎)の活動性が高いことを示しています。
他にも、SLEが全身に及ぼす影響を調べるための多くの検査があります。腎生検(組織の一部を少し採取します)はよく施行される検査で、ループス腎炎の病型や重症度に関する貴重な情報が得られ、適切な治療を選択するのにとても役立ちます。また、病変局所の皮膚生検も、皮膚の血管炎や円板状皮疹の診断や、様々な皮疹と鑑別するのに役立ちます。その他の検査としては、胸部レントゲン撮影(心臓と肺に対して)、心エコー、心電図、肺機能、脳波、MRIなどによる脳検査、および可能であれば様々な組織の生検があります。
2.3 治療できますか?なおりますか?
現時点では、SLEを治癒させる特別な治療はありません。SLEの治療は、SLEの徴候や症状をコントロールし、合併症(回復が見込めない臓器・組織障害を含む)を予防するのに役立ちます。初めてSLEと診断された時は、一般に病気の活動性は高い状態です。この段階で、病気をコントロールして臓器障害を防ぐためには、高容量の薬が必要となるかもしれません。多くの子ども達では、SLEの活動性はこの治療によりコントロールされ、寛解状態に達すれば低容量の薬でも病気は落ち着いている状態になります。
2.4 治療の内容は?
小児SLEに対して承認された薬物療法はありません。SLEにおける症状の大部分は炎症が原因であり、治療は炎症を抑える目的で行われます。小児SLEの治療として広く用いられている5種類の薬を紹介します。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
NSAIDs(例えば、イブプロフェンやナプロキセン)は関節炎の痛みに対して使われます。通常は短期間だけ使用し、関節炎の改善とともに減量します。アスピリンを含めて色々な薬があります。今日、アスピリンが抗炎症薬として使われることは稀になりましたが、抗リン脂質抗体が陽性の小児に対しては、血栓を予防する目的で*広く使われています。
*この場合は少量のアスピリンが処方されます。
抗マラリア薬
抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンは、光線過敏による皮疹(例えば円盤状皮疹や亜急性SLEの皮疹)に対して非常に有効です。効果がでるまでに数か月かかることがあります。早期投与により、再燃のリスクが減り、腎疾患のコントロールが良好となり、心血管系を含めた臓器の障害から守られます。SLEとマラリアの関係については不明です。ヒドロキシクロロキンはSLEの免疫異常を制御します。この機序はマラリアの患者さんにおいても同様に重要です。
副腎皮質ステロイド
プレドニゾンやプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドは、炎症を抑え、免疫系の活動性を抑制するために使用されます。これらはSLE治療の中心となる薬剤です。軽症であれば、必要な治療は副腎皮質ステロイドと抗マラリア薬だけです。より重症(腎炎や臓器障害の存在)であれば、副腎皮質ステロイドは免疫抑制薬と併用して使用します(下記参照)。病気の初期には、病気のコントロールに、数週から数か月の間、副腎皮質ステロイドの連日投与が不可欠です。また多くの子ども達かで、何年にもわたり副腎皮質ステロイド薬を必要とします。初期の投与量と投与間隔は、病気の重症度と臓器障害から決定します。経口や点滴による副腎皮質ステロイドの大量投与は、通常は重症の溶血性貧血、中枢神経病変、および重症腎炎の治療として行われます。副腎皮質ステロイドを始めると、子ども達は数日で楽になり元気が出てきます。症状がコントロールされたら、健康状態をみながら副腎皮質ステロイド量を少しずつ減量していきます。副腎皮質ステロイドの減量は徐々に行うべきで、症状や検査の結果をみて、病気の活動性が抑えられていることを確かめながら進めます。
思春期の患者さんは、時に副腎皮質ステロイドを中止したり投与量を自分で増減しようとします。おそらく副作用が嫌であったり、気分にむらがでたりするからです。子ども達と両親には、副腎皮質ステロイドの働きと薬をやめたり量をかえたりすることがなぜ危険であるのかをよく理解してもらうことが重要です。副腎皮質ステロイド(コルチゾン)は普通、体の中で作られますが、治療が始まると、自分自身でコルチゾンを作ることをやめてしまい、副腎は働かなくなってしまいます。
もし、副腎皮質ステロイドを長い期間使用していた場合、急に中止すると、しばらくは十分なコルチゾンを体内で作り始めることができません。その結果、コルチゾン不足で生命を脅かす危険にさらされてしまいます(副腎不全)。副腎皮質ステロイドの急激な減量も再燃を招く危険があります。
免疫抑制薬
この薬には、アザチオプリン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、およびシクロホスファミドがあります。副腎皮質ステロイドと異なる機序で炎症を抑えます。これらの薬は、副腎皮質ステロイドのみではSLEをコントロール出来ない場合と副腎皮質ステロイドを維持量まで減量する場合(SLEをコントロールしながら副作用を減らすため)に役立ちます。
ミコフェノール酸モフェチルとアザチオプリンは経口薬として投与し、シクロホスファミドは経口薬または点滴パルス療法として投与します。シクロホスファミド療法は、子ども達の重篤な中枢神経病変において用います。メトトレキサートは経口薬または皮下注射薬として投与します。
生物学的製剤
生物学的製剤(よくバイオと呼ばれます)は、自己抗体の産生を防いだり、病気に特異的な分子に作用します。これらの製剤の1つにリツキシマブがあります。リツキシマブは、主に標準的な治療でも病気をコントロールできないときに用います。ベリムマブ*は、B細胞の抗体産生を直接阻害し、成人SLEの治療として認可されています。一般に、小児および思春期SLEにおける生物学的製剤の使用は、まだ試験的な段階です。
*日本では成人、小児ともに治験中です。
自己免疫疾患の領域において、SLEは特によく研究されています。将来の目標は、免疫系を全て抑制することなく、狙いを定めたより良い治療を開発するために、炎症と自己免疫の特異的なメカニズムを解明することです。最近は、SLEに関連した多くの臨床研究があります。小児期SLEの特徴について理解を広げるために、新しい治療と研究が試みられています。この現在進行中の研究がSLEの子ども達に、ますます明るい未来をもたらすことでしょう。
2.5 治療の副作用には何がありますか?
SLEの治療で用いられる薬はとても効果があるものですが、他の薬剤と同様に、様々な副作用があります(詳しい副作用の説明は、治療の項をみてください)。
NSAIDsの副作用には、胃の不調(NSAIDsは食後に内服するべきです)、あざができやすくなる、稀に腎臓や肝臓の機能異常があります。抗マラリア薬は、目の網膜に影響を及ぼすことがあるので、眼科医による定期検査を受ける必要があります。
副腎皮質ステロイドには、短期、長期使用にかかわらず、様々な副作用があります。大量あるいは長期に副腎皮質ステロイドを使用した場合は、副作用が出現する危険性は高まります。主な副作用を下記にお示しします。
外見の変化(例えば、体重が増える、頬がふっくらする、体毛が濃くなる、皮膚に妊娠線のような線がでる、ニキビができる、あざができやすい、など)があります。体重増加は、低カロリー食と運動でコントロールすることができます。
感染、特に結核や水痘にかかる危険性が高まります。副腎皮質ステロイドを内服している子どもが水痘患者と接触した場合、できるだけ早く医師にみてもらう必要があります。水痘に対する抗体を投与することで(受動免疫)、素早く予防できるかもしれません。
消化不良や胸やけなどの胃腸障害がみられ、潰瘍治療薬が必要になることがあります。
成長障害があります。
頻度の低い副作用は以下の通りです。
高血圧
筋力低下(階段を昇ったり、椅子から立ち上がることが困難になります)
糖代謝障害(特に糖尿病家系において)
気分の変化(うつ病、そう病)
目の問題(白内障、緑内障)
骨の脆弱化(骨粗鬆症)
運動、カルシウムの豊富な食事、およびカルシウムとビタミンDのサプリメントなどで予防できます。予防は、大量の副腎皮質ステロイド治療が始まり次第、すぐに行うべきです。
重要な点は、副腎皮質ステロイドの副作用のほとんどは可逆的であり、薬の減量や中止により副作用はなくなることです。
免疫抑制薬や生物学的製剤においても重大な副作用が起こることがあります。
2.6 治療はいつまで続きますか?
病気が持続する限り治療を続ける必要があります。ほとんどのSLEの子ども達において、副腎皮質ステロイドから完全に離脱することは一般にかなり困難です。しかし、少量の副腎皮質ステロイドによる長期の維持療法であっても、再燃を防ぎ、病気をコントロールすることができます。多くの患者さんにとって、これが再燃のリスクを防ぐ最良の方法と考えられています。また、その際の少量の副腎皮質ステロイドの副作用は極めて少なく、また軽度です。
2.7 他の治療や補助治療はありますか?
多くの補助・代替治療が身近にあるため、患者さんや家族を混乱させています。これらの治療に関しては、ほとんど有益性が証明されておらず、時間や費用の負担も大きいため、その危険性と利益について慎重に考える必要があります。もし、あなたが補助および代替治療を検討したい場合、あなたの主治医である小児リウマチ専門医と話し合ってください。いくつかの治療は、従来の薬に影響する可能性があります。もしあなたが医師のアドバイスを受け入れられるようであれば、多くの医師は反対しないでしょう。重要なことは、あなたが処方された薬を服用するのをやめないことです。もし病気がまだ活発である場合、病気をコントロールするためには薬が必要であり、中止することは非常に危険です。薬の重要性については、あなたの子どもさんの主治医とよく話し合ってください。
2.8 どのような定期検査が必要ですか?
頻回に受診することが重要です。なぜなら、SLEによる色々な状況は、早く発見することで予防や治療ができるからです。一般に、SLEのお子さんは少なくとも3か月毎にリウマチ専門医に診てもらう必要があります。必要に応じて、他の分野の専門医に紹介します。例えば、小児皮膚科専門医(スキンケア)、小児血液専門医(血液疾患)または小児腎臓専門医(腎炎)があります。社会福祉士、心理士、および栄養士など色々な専門家に紹介することもあります。
SLEの子ども達は、定期的な血圧測定や、尿検査、血液検査(全血算、血糖、凝固、補体、および抗DNA抗体価)を受けるべきです。免疫抑制薬を使用中は、骨髄で作られる血液が少なくなっていないかを確認するために、定期的な血液検査が必須です。
2.9病気はいつまで続きますか?
前にも述べたように、SLEを治癒させる治療はありません。小児リウマチ専門医に処方された薬をきちんと継続すれば、SLEの徴候や症状は、最小限に、あるいはなくすこともできます。一方、薬を定期的に服用しなかったり、感染症、ストレス、または日光にさらされるなどの要因は、SLEを悪化させるかもしれません。この悪化は「ループス再燃」として知られています。病気の経過を予測することは、しばしば困難です。
2.10 この病気の長期予後はどうですか?
SLEの転帰は、ハイドロキシクロロキン、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬により、早い時期から長期にわたって病気をコントロールできるようになり、劇的に改善しています。小児期に発症したSLEの患者さんの多くは、予後良好です。しかし、病気が重篤となり命を脅かすようになったり、思春期や成人まで活動性を持ち越すことがあります。
小児期SLEの予後は、臓器病変の重症度で決まります。重篤な腎炎や中枢神経障害のある子ども達には、積極的な治療が必要です。それに対して、軽度の皮疹や関節炎は、容易にコントロールできることがあります。個々の子ども達の予後を予見することは、簡単ではありません。
2.11 完治できますか?
もし、早期に診断され早い段階から適切な治療を受けた場合、病気は大抵落ち着き、寛解(全ての徴候や症状がない状態)するでしょう。しかし前に述べた通り、SLEは予想不可能な慢性疾患であり、SLEと診断された子ども達は、医療ケアとして治療を継続するのが通常です。子ども達が成人に達したら、内科リウマチ専門医が経過をみることになります。
3.1 子どもと家族の日常生活における影響はありますか?
治療を受けたSLEの子ども達は、まったく普通の生活を送ることができます。過剰な日光や紫外線だけは例外で、それはSLEを発症させたり悪化させたりします。日中はビーチに行かないこと、あるいはプールでは日陰にいることが必要です。SPF 40かそれ以上の日焼け止めが必須です。10歳までの子ども達は、自分が受けている治療や、自分のケアを自分で決めることに重要な役割があることを、当然だと思い始めることが大切です。子どもと親は、症状の悪化を見極めるために、SLEの症状を理解すべきです。再燃が治まった後も、慢性疲労とやる気不足のような症状が数か月間は続くかもしれません。定期的な運動は、適正体重、骨の健康な状態を維持するために重要です
3.2 学校生活で注意することはありますか?
SLEの子ども達は、病気の活動性が高い時期を除いて、学校に登校するべきです。中枢神経病変がない限り、SLEの子ども達が学んだり考えたりする能力には影響はありません。中枢神経に病変があれば、集中力低下、記憶力低下、頭痛、気分変化などの問題が起こるかもしれません。このような場合には、予め教育方針を決めておく必要があります。課外活動への参加は、病気が許す限り促すべきです。しかし、SLEによる関節痛や身体の痛みなどで学習に影響がある時、教師は、便宜が図れるように生徒がSLEであることを認識しておく必要があります。
3.3 運動制限はありますか?
すべての活動を控えることは不要で、望ましいことではありません。病気が落ち着いている間は、普通に運動した方が良いでしょう。散歩、水泳、自転車、体操、または野外活動が推奨されています。野外活動では、適切な日焼け防止の服、高SPFの日焼け止め、および日差しが強い時間帯を避けることが勧められています。疲れ過ぎる運動は避けるべきです。病気が悪化した時は運動すべきではありません。
3.4 食事はどうすれば良いですか?
SLEを治癒させる特別な食事はありません。SLEの子ども達は、健康的でバランスのとれた食生活でなければなりません。もし副腎皮質ステロイドを飲むなら、高血圧を防ぐために塩分は控えめに、肥満を防ぐために砂糖は控えめにするよう心掛ける必要があります。さらに、骨粗鬆症を予防するために、カルシウムとビタミンDを補うべきです。その他のビタミン摂取に関しては、SLEにおいて科学的に良いとは証明されていません。
3.5 気候は病気の経過に影響しますか?
日光に当たることは、新しい皮膚病変を生じさせ、SLEを悪化させることがよく知られています。この問題を防ぐために、外出の度に、日光に当たる部分に高いSPFの日焼け止めを塗ることが薦められています。少なくとも外出30分前には塗って浸透させ、乾かすことを覚えておいてください。晴れた日は、日焼け止めを3時間毎に塗り直さなければなりません。水をはじく日焼け止めもありますが、入浴や水泳後にはもう一度塗り直してください。また、日焼けを防ぐ「つば」の広い帽子と長袖の服を着ることも重要です。これは曇りの日も守って下さい。紫外線は雲を簡単に通り抜けるからです。子ども達によっては、蛍光灯、ハロゲンライト、またはコンピューターの画面からも紫外線を浴びる経験をします。紫外線を通さない画面は、このような子ども達に有用です。
3.6 予防接種は受けられますか?
SLEの子ども達は感染の危険性が高まるため、ワクチン接種で感染を予防することが特に重要です。もし可能であれば、普通通りのスケジュールで予防接種を受けるべきです。しかし、例外もあります。病気の活動性が高いときは、予防接種を受けてはいけません。免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド、および生物学的製剤の治療を受けているときは、生ワクチン(麻疹、おたふくかぜ、風疹、水痘、および経口ポリオワクチン)を受けてはいけません。経口ポリオワクチンは、免疫抑制療法を受けている子ども達と同居している家族も接種してはいけません。
肺炎球菌、髄膜炎菌、およびインフルエンザワクチンの接種は、高容量の副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を使用しているSLEの子ども達に勧められています。HPVワクチンの接種は、思春期のSLEの男女に推奨されています。
SLEの子ども達では予防接種の効果が長く続かないようです。よって、予防接種の回数がより多く必要となるかもしれない点に注意してください。
3.7 性生活、妊娠および計画出産はどうすれば良いですか?
思春期の男女は健康な性生活を楽しむでしょう。しかし、特定の免疫抑制薬で治療中または病気に活動性がある思春期においては、安全な避妊方法を用いなければなりません。理想的には、妊娠は常に計画的であるべきです。特に、いくつかの血圧の薬と免疫抑制薬は胎児の発育を妨げます。多くのSLEの女性は、正常に妊娠し健康な赤ちゃんを産むことができます。理想的な妊娠時期は、病気(特に腎炎)が長期間コントロールできている時です。SLEの女性は、病気の活動性だけでなく薬によっても妊娠に悪影響を及ぼす可能性があります。またSLEは、流産、早産、および新生児ループス(付録 2)として知られている赤ちゃんの先天的な異常などのリスクとも関連します。抗リン脂質抗体(付録 1)が上昇した女性は、妊娠に問題が起こる危険性が高いと考えられています。
妊娠は、それ自体がSLEを悪化させる可能性があります。よって、すべての妊娠したSLEの女性は、リウマチ専門医と連携可能な、危険性の高い妊娠に精通している産科医に診てもらわなければなりません。
SLEの患者さんの最も安全な避妊法として、バリア(コンドームやペッサリー)と殺精子薬があります。プロゲステロンのみの避妊薬、ある種の子宮内器具(IUD)も使用可能です。エストロゲンを含む避妊用ピルは、妊娠の危険性を最小限にする新しい選択肢ですが、SLEの女性の病勢を悪化させる可能性があります。
抗リン脂質抗体は、自分自身のリン脂質成分(細胞膜の一部)やリン脂質に結合している蛋白に対する自己抗体です。抗リン脂質抗体は、抗カルジオリピン抗体とループスアンチコアグラントの2種類がよく知られています。抗リン脂質抗体は、SLEの子ども達の約50%にみられますが、他の自己免疫疾患、さまざまな感染症、および少数の健康な子ども達にも同様にみられることがあります。
これらの抗体は、血管内で血液を固まりやすくし、動脈塞栓、静脈塞栓、血小板減少症、頭痛を伴う片頭痛、てんかん、および網状皮斑など、沢山の病気と関連します。血栓ができる場所として多いのは脳であり、脳卒中を招きます。その他の場所として、血栓は足の静脈や腎臓にも起こります。抗リン脂質抗体症候群とは、抗リン脂質抗体陽性の場合に起こる血栓症に対してつけられた病名です。
抗リン脂質抗体は特に妊娠中の女性に重要です。胎盤の機能にかかわるからです。胎盤の静脈に血栓ができると、早期流産(自然流産)、胎児発育遅延、子癇(妊娠中の高血圧)、および死産を招いたりします。抗リン脂質抗体を持つ女性は妊娠すること自体が困難なこともあります。
抗リン脂質抗体陽性の大多数の子ども達は、血栓症を起こすことはありません。このような子ども達に対して、現在、予防的な治療の研究が進められています。現在では、抗リン脂質抗体陽性の自己免疫疾患の子ども達には、少量のアスピリンがよく用いられます。アスピリンは血小板の粘性を低下させ、血液を凝固させる機能を低下させます。抗リン脂質抗体陽性の思春期における重要な管理として、喫煙や経口避妊薬をさけることが挙げられます。
血栓症を起こし、抗リン脂質抗体症候群の診断が確定した場合、主な治療は血液の粘性を低下させることです。通常は、ワーファリンという抗凝固薬を内服します。ワーファリンは連日服用し、血液の粘性の程度が適正であるか定期的な血液検査で確認する必要があります。ヘパリンの皮下注をアスピリンと併用する治療もあります。抗凝固療法の継続期間は、病気の重症度と血栓のタイプで決まります。
流産を繰り返している抗リン脂質抗体陽性の女性に対し、治療することもできますが、ワーファリンは催奇形があるため妊娠中は用いられません。かわりにアスピリンとヘパリンが用いられます。妊娠中はヘパリンを皮下注射します。このような治療は産科医によって慎重に行われ、約80%の女性が妊娠に成功しています。
新生児ループスは、胎児や新生児における稀な病気で、母親の特異的自己抗体が胎盤を介して赤ちゃんに移行して起こる病気です。新生児ループスにかかわっている特異的自己抗体は、抗SS-A/Ro抗体と抗SS-B/La抗体です。これらの抗体はSLEの1/3にみられますが、これらの抗体を持つ母親から生まれた新生児の多くは新生児ループスにはなりません。一方で、SLEではない母親から新生児ループスの子どもが生まれることもあります。
新生児ループスは、SLEとは異なります。ほとんどの症例において、新生児ループスの症状は生後3〜6か月までしかみられず、後遺症も残しません。もっとも多い症状は皮疹で、生後2、3日目から数週間にかけて、特に日光に当たった後に出現します。新生児ループスの皮疹は、一過性で痕を残さずに治ります。次に多い所見は血球数の異常ですが、重篤になることは稀で、無治療で数週間後には消失します。
ごく稀に、先天性心ブロックという不整脈が起こることがあります。赤ちゃんの脈が異常に遅くなり、これは一生続きます。妊娠15〜25週の時に胎児心エコーによって診断されることがあり、出生前に胎内で治療できる場合もあります。出生後に多くはペースメーカーが必要になります。もし1人目の子どもに先天性心ブロックがあれば、2人目の子どもにも10〜15%の確率で同じことがおこります。
新生児ループスの子ども達は、正常に発育します。将来、SLEになる確率はほとんどありません。