1.1血管炎はどのような病気ですか?
血管炎は、その名のとおり血管の炎症です。血管炎という病名は、様々な病気を含んでいます。その中で原発性血管炎とは、原因となる他の病気が無いのに、主に血管に炎症がおきる疾患を意味します。炎症が起きる血管の大きさや種類により、さらに細かい病名に分類されます。軽症の血管炎から命に関わる重症の血管炎まで、重症度も様々です。稀なというのは、子どもでは非常に珍しい病気であることを意味しています。
1.2 よくある病気ですか?
子どもでよくみられる血管炎もありますが、(< l=8*t1>ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、< l=7*t1>川崎病)、この後述べる血管炎は非常に稀で、頻度も正確にはわかっていません。診断がつくまで、血管炎という病名を一度も聞いたことがないという親御さんもおられます。ヘノッホ・シェーンライン紫斑病と川崎病は別の項で詳しく述べます。
1.3 病気の原因何ですか?
遺伝しますか?他の人に感染しますか?予防法はありますか?
同じ家族内で複数のひとが原発性 (原因不明の)血管炎を発症することは通常ありません。多くの場合、家族内で病気になるのは一人だけであり、その兄弟が同じ病気になることはまずありません。いくつかの要因が重なって病気を発症すると考えられています。中でもいくつかの遺伝子や感染、環境因子が発症に重要と考えられています。
これらの病気は伝染しません。また予防したり完全に治すこともできません。しかし、病気をコントロールすることは可能です。つまり、病気の勢いを抑え、症状をなくすことはできます。この状態を「寛解」と呼びます。
1.4 血管炎では、血管に何が起こっているのでしょうか?
血管の壁が、自分の免疫システムから攻撃を受けて傷つきます。血管の壁に傷がつくと、血液の流れが滞り、血管の中に血の塊ができます。その結果、血管の中が細くなったり場合によっては詰ったりします。
炎症細胞が血液の流れに乗って血管の壁に集まり、血管の壁やさらには血管の周囲も傷つけます。これらの現象は、その血管の一部を体から取り出して顕微鏡で見ると確認することができます。
血管壁はもろくなっているので、血液の液体成分が血管の外に漏れ出します。そのため周囲の組織がむくみます。血管炎で皮疹などの皮膚症状がでるのはこのためです。
血管が細くなったり、つまったり、またときには血管が破れるために、内臓に血液が届かなくなると、内臓がダメージを受けることがあります。内臓の中でも、脳・腎臓・肺・心臓といった生命の維持に関わる内臓の血管に血管炎が起こると、重症になります。炎症を起こす物質が体中に広がって体全体の血管に炎症が起きると、熱がでたり、倦怠感を感じます。血液検査では、赤血球沈降速度(ESR)やCRPが上昇します。太い血管に関しては、血管造影という放射線検査を行えば、血管の中が細くなったりつまっているかどうかが分かります。
2.1どんな種類の血管炎がありますか?どのようにして分類されますか?
子どもの血管炎は、炎症を起こす血管の太さで分類されます。大血管の血管炎は、大動脈とその分岐の血管に生じます。高安動脈炎などがあります。中動脈の血管炎は、腎臓・消化管・脳・心臓に血液を送る血管に生じます。結節性多発動脈炎、川崎病などがあります。小血管の血管炎は、毛細血管を含めた細い血管に生じます。ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、多発血管炎性肉芽腫症、チャーグ・ストラウス症候群、皮膚白血球破砕性血管炎、顕微鏡的多発血管炎などがあります。
2.2 主な症状は何ですか?
血管炎の症状は、炎症が起きる血管の範囲や場所によって様々です。また、血管の炎症によって血液の流れがどの程度滞るかによっても異なります。血液の流れが完全に途絶えると、内蔵に酸素や栄養が供給されなくなります。その結果内蔵は不可逆的な障害を受けます。障害の程度が重くなると、その内蔵の働きが低下します。典型的な症状については、それぞれの病気の項で後述します。
2.3 どのように診断するのでしょうか?
血管炎を診断することは、通常困難です。血管炎の症状は、他のよりありふれた子どもの病気の症状と似ています。診断は、症状・血液検査・尿検査・画像検査をもとに専門家が総合的に判断して行います。血管炎を起こしている体の一部を採取して顕微鏡で確認できれば、診断が確定します。稀な病気なので、小児リウマチの専門医や画像検査の専門医に意見を求める必要がしばしばあります。
2.4治療法があるのでしょうか?
あります。多くの患者さんは病気をコントロール(寛解)することができます。しかし、患者さんの中には病気のコントロールが難しい子どももいます。
2.5それはどのような治療法でしょうか?
治療は複雑で長期間続きます。まずできるだけ早期に寛解状態に到達させること(寛解導入療法)が治療目的です。寛解状態になったら、その状態を長期間維持します(維持療法)。その間、治療による副作用が極力出ないようにします。具体的な治療薬は、患者さんの年齢と病気の重症度に応じて決定されます。
寛解導入に最も効果的な薬は、コルチコステロイドです。シクロホスファミドといった体の免疫力を抑える薬と一緒に使用されます。
維持療法に使用される薬には、アザチオプリン、メトトレキサート*1、ミコフェノール酸モフェチル*1、少量プレドニゾロンがあります。また、一般的な薬で効果が無い場合に限って使用される薬もあります。生物学的製剤(TNF阻害剤*1、リツキシマブ等*2、コルヒチン*1、サリドマイド*1などです。
日本では保険未収載*1,一部の血管炎*2にのみ保険適応です。
コルチコステロイドによる治療を長期間行う場合には、骨粗鬆予防のためにカルシウムとビタミンDを十分摂取する必要があります。血栓予防には、少量アスピリンや抗凝固薬が必要です。高血圧が起こった場合は、血圧降下薬が用いられます。
体の運動機能を改善するために理学療法が必要になることもあります。また、患者さんとその家族が闘病生活のストレスに対応するのに、心理的社会的なサポートも重要です。
2.6民間療法はどうですか?
多種多様な民間療法があり、患者さんやご家族は迷われるかもしれません。民間療法は、その効果がしっかり証明されていることがほとんどなく、時間的にも、経済的にも、こどもの体にも負担が大きい可能性があります。ですので、民間療法を試みる際には、その治療の利益と不利益をよく検討してください。また、主治医の先生に相談してください。いくつかの民間療法は、処方されている薬の効果に影響を及ぼす可能性があります。大半の医師は、患者さんが助言を守ってくれさえすれば民間療法に反対はしないでしょう。大切なのは、処方されている薬の内服をやめないことです。まだ血管炎が活動期にあるのに、コルチコステロイドを中止することは特に危険です。かならず主治医の先生に相談してください。
2.7治療開始後の検査
治療開始後に定期的に検査をする主な目的は、病気の勢いを評価して、治療が副作用なく最も効果的に行われているかどうかを確かめることです。検査の間隔やどんな検査を行うかは、血管炎の種類と使われている薬によって変わります。病気の初期は、外来通院で検査を行うこともあれば、入院で行うこともあります。病気が落ち着くにつれて、検査の間隔も開いてきます。
病気の勢いを評価するにはいくつかの方法があります。主治医からお子さんの状態の変化を報告するよう頼まれたり、テープを用いて尿の検査をしたり血圧測定をするよう依頼されるかもしれません。患者である子どもの声に耳を傾け、詳細な臨床検査を行うことは、病気の勢いを評価する上でとても重要です。血液検査や尿検査は、炎症の勢い評価し、内臓の働きの変化をとらえ、薬の副作用を調べるために行います。血管炎が起こっている内臓の種類に応じて、その内臓の専門科の医師がさらに様々な検査を行います。また、画像検査も必要です。
2.8この病気はどれぐらい続くのでしょうか?
この病気は、しばしば一生続く病気です。病気は突然起こり、時に命に関わる重篤な状態に陥りますが、その時期を乗り越えると次第に慢性の病気に移行していきます。
2.9この病気の予後は?
予後については個人差の大きい病気です。血管炎の種類や程度だけでなく、症状が出てから治療が始まるまでの期間や、治療の効果によっても予後は異なります。内臓がダメージを受ける危険性は、病気の勢いが強い期間が長くなるほど高まります。生命維持に重要な臓器がダメージを受けると、寿命に影響がでます。一方で適切な治療を受ければ、1年以内に寛解状態になります。寛解状態を一生維持するには、長期間維持療法を続けることがしばしば必要です。寛解状態になっても病気が再発することがあり、その際はより強い治療が必要になります。もし治療を受けなければ病死する可能性が高くなります。稀な病気であるために、長期予後や生命予後はよく分かっていません。
3.1この病気は患児やその家族の日常生活にどのような影響を及ぼしますか?
病気の初期は、お子さんは体調が悪くまた診断も確定していないため、家族全員が非常につらい思いをすると予想されます。
病気やその治療法を知ることにより、お子さんもご両親もその病気と戦っていこうという勇気がわいてきます。一度病気をコントロールすることができれば、今まで通りの日常生活が戻ってきます。
3.2学校にはいけますか?
一度病気が落ち着くと学校に戻れます。大切なのは、お子さんの体調を学校に伝えておくことです。そうすれば、学校もお子さんの体調に合わせた配慮をしてくれる可能性があります。
3.3 スポーツはできますか?
病気が寛解状態になれば、好きなスポーツをすることが可能です。
ただし、コルチコステロイドの治療により筋肉・関節・骨がどこまでダメージを受けているかによって、そのスポーツをどこまで積極的にやって良いかは変わってきます。
3.4食事はどうですか?
食事内容が病気に影響するという科学的な根拠はありません。十分な蛋白質、カルシウム、ビタミンを含む健康的でバランスのとれた食事が成長期のお子さんには必要です。コルチコステロイドの治療を受けている期間は、糖分・脂肪・塩分は控えましょう。そうすることでステロイドの副作用が出にくくなります。
3.5気候の影響はどうでしょう?
病気に対する気候の影響ははっきりわかっていません。病気によって手足の先の血液の流れが悪くなっている場合は、寒い時期になると症状が悪化します。
3.6感染や予防接種はどうですか?
免疫を抑える薬を使用している場合は、感染症が重篤化する可能性があります。お子さんの周囲に水ぼうそうや帯状疱疹の人がいたことが判明したら、すぐに主治医に連絡して下さい。場合によっては、抗ウィルス薬や免疫グロブリンの投与が必要かもしれません。一般的な感染症であれば、危険性がややます程度です。通常の免疫力があれば感染しないような、特殊な感染症にかかることもあります。ニューモシスチスと呼ばれる細菌が肺に感染すると命に関わる可能性があるので、予防的に抗生剤(ST 合剤)を長期間内服することもあります。
生ワクチン(BCG、はしか、風疹、水痘、おたふくかぜ)の予防接種は、免疫抑制剤を服用している間は、延期して下さい。
3.7性生活、妊娠、避妊はどうですか?
お子さんが思春期であれば、避妊が大切です。使われている薬剤の多くは胎児の成長に影響を及ぼすからです。毒性の強い薬剤(主にシクロホスファミド)は、不妊の原因となる可能性があります。不妊の危険性は、これまでに投与された薬の合計量と関係します。一般に学童期や思春期のお子さん対する影響は成人より少ないといわれています。
4.1 どんな病気ですか?
おもに中程度から細いサイズの動脈の壁が破壊される病気です。多くの動脈の壁が、つぎはぎ状に色んな場所で破壊されます(多発性)。破壊された血管の壁はもろくなり、中を流れる血液の圧力によって動脈の一部が外側に向かって結節状に膨らみます(動脈瘤)。これが「結節性」という病名の由来です。皮膚型多発動脈炎は主に皮膚や筋肉、骨の血管に血管炎が生じ、内臓の血管には炎症が起こりません。
4.2 病気の頻度は?
とてもまれな病気です。1年の間に新たにこの病気になる人の数は、100万人に1人です。性別に差はなく、9〜11歳のお子さんが発症することが多いです。レンサ球菌や、B型肝炎、C型肝炎が発症に関与している可能性が考えられています。
4.3 主にどんな症状がでますか?
最もよくある全身症状は、長引く熱、不快感、疲労感、体重減少です。
血管炎がおこる内臓の種類によって、実に様々な症状がでます。血管炎によって内臓への血液の流れが滞ると、「痛み」がでます。お腹への血流が滞ると、腹痛がでます。他に、筋肉痛や関節痛、精巣の痛みがでることもあります。皮膚に症状が出ることがあり、その特徴は非常に多彩です。例えば、「紫斑」と呼ばれる点状の発疹や、「網状皮斑」とよばれる紫色がかった網状の斑点といった、痛みを伴わない皮疹がでます。一方で、指・かかと・耳・鼻先など、体の末端への血流が完全に途絶えると、痛みを伴って、皮下結節や潰瘍、壊疽が出現します。腎臓の血管に血管炎が起きると、尿の中に血液や蛋白が漏れ出たり、血圧が上がったります。神経の血管に炎症が起きると、痙攣や脳梗塞、その他の神経症状がでます。
重症例では、症状は急激に悪化することがあります。血管の中で炎症が激しく起こると、血液検査で白血球数が上昇し、ヘモグロビンの値が低下します。
4.4 どのように診断しますか?
長引く熱の原因として、感染症など他の病気がないか確認します。長引く熱に対して一般的に用いられる抗菌薬を投与しても、全身・局所の症状が持続するようであれば、この病気を疑います。血管造影検査で血管の形が不整になっていることを確認するか、体の一部を採取して血管の壁に炎症が起こっていることが顕微鏡で確認できれば、診断が確定します。
血管造影検査とは、血管の中に造影剤という液体を入れて、放射線を照射することで血管の形が見えるようにする検査です。これは古典的血管造影検査と呼ばれます。CT検査と組み合わせたCT血管造影という検査もあります。
4.5どのような治療法がありますか?
小児の結節性多発動脈炎では、
コルチコステロイド が治療の中心です。薬の投与の仕方(点滴か飲み薬か)、薬の量や期間は、個人個人の病勢に応じて決定されます。血管炎の場所が皮膚や筋肉、骨だけであれば、コルチコステロイド以外の免疫抑制薬が使用されないこともあります。しかし、病勢が強い場合や生命維持に関係する内臓に血管炎が起こっている場合は、シクロホスファミドなどの他の免疫抑制薬を一緒に使用して病勢をコントロールします(寛解導入療法と呼ばれます)。コルチコステロイドと免疫抑制薬を併用しても効果が無ければ、生物学的製剤など他の薬剤が用いられることがあります。しかし結節性多発動脈炎に対する生物学的製剤の効果は、正式には検証されていません。
寛解導入療法によって病気の活動性が治まったら、維持療法によって寛解状態を維持します。
アザチオプリン、
メソトレキセート*、
ミコフェノール酸モフェチル*などが使用されます。
* 日本では保険未収載です。
個々の患者さんに応じて、他にも様々な薬が使用されます。レンサ球菌感染が病気のきっかけであれば、ペニシリンが投与されます。血管を広げる薬(血管拡張薬)、血圧を下げる薬、血液を固まりにくくする薬(アスピリン、抗凝固薬)、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)なども使用されます。
5.1どんな病気ですか?
主に、大動脈や大動脈から枝分かれした血管、肺動脈など太い血管に炎症がおこります。炎症が起こっている動脈の壁の中に、特殊な巨細胞を中心に形成された小結節が見られることから、「肉芽腫血管炎」や「巨細胞性血管炎」などと呼ばれることがあります。また、「脈無し病」と呼ばれることもあります。手足の脈が触れなくなることがあるからです。
5.2病気の頻度は?
アジア人では比較的頻度が高く、白人では極めて頻度が低いです。男性より女性の方が多く、思春期に発症する傾向があります。
5.3主にどんな症状がでますか?
発熱・食欲低下・体重減少・筋肉痛・関節痛・頭痛・寝汗が、病気の初期にみられます。血液検査では炎症反応が上昇します。病気が進行すると、内臓への血液供給量が減少して様々な症状が現れます。例えば、手足の脈拍が触れなくなったり、血圧の測定値が左右の手足で異なったり、聴診器で聴くと血管の雑音が聞こえたり、手足に鋭い痛みを感じるといった症状がよく起こります。小児期の高安動脈炎では腎臓への血液供給量が低下するために、高血圧になることが非常に多いです。脳への血液供給量が低下すると、頭痛・神経症状・眼の症状が現れます。
5.4どのように診断しますか?
最初の検査としては、ドップラー法を用いた超音波検査が有効です。心臓に近い太い血管の異常はよく分かります。
太い血管の検査に関しては、MRI検査が最も適切です。細い血管の検査には、血管造影検査が行われます。血管の中に造影剤という液体を入れて、放射線を照射することで血管の形が見えるようにする検査です。これは古典的血管造影検査と呼ばれます。
コンピューター断層診断 (CT検査)という検査が行われることがあります。またPET(Positron Emission Tomography) *という検査では、体の中に放射性物質を投与します。放射性物質は炎症を起こしている部位に集まるので、放射線検知器でみると、炎症が起こっている血管に放射性物質が集まっているのがわかります。
* 日本では保険未収載です。
5.5どのような治療法がありますか?
子どもの高安動脈炎では、コルチコステロイドが治療の中心です。薬の投与の仕方(点滴か飲み薬か)、薬の量や期間は、個人個人の病勢に応じて決定されます。コルチコステロイドの投与量を減らす目的で、病気の初期から他の免疫抑制薬を同時に使用することもあります。よく使用される免疫抑制薬は、アザチオプリン、メソトレキセート*、ミコフェノール酸モフェチル*です。病勢が強い場合は、病勢を抑えるために(寛解導入療法)、シクロホスファミドを最初に使用します。これらの薬を使用しても効果が無ければ、生物学的製剤(TNF阻害剤*、トシリズマブ*)など他の薬剤が用いられることがあります。しかし高安動脈炎に対する生物学的製剤の効果は、正式には検証されていません。
* 日本では保険未収載です。
個々の患者さんに応じて、他にも様々な薬が使用されます。血管を広げる薬(血管拡張薬)、血圧を下げる薬、血液を固まりにくくする薬(アスピリン、抗凝固薬)、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)などです。
6.1どんな病気ですか?
GPAは徐々に進行して、全身の血管に炎症を起こします。主に細い動脈と、鼻や副鼻腔、肺、腎臓が影響を受けます。炎症が起こっている場所では、小さく何層にも折り重なった結節が血管の中や血管を囲むようにして存在する様子が顕微鏡で確認できます。これが「肉芽腫』という病名の由来です。
MPAも細い血管に炎症を起こします。いずれの病気も、ANCA(抗好中球細胞質抗体)という物質が体に存在します。そのため、ANCA関連疾患という病名がついています。
6.2病気の頻度は?小児と大人では違うのでしょうか?
GPAは子どもでは特に珍しい疾患です。正確な頻度は分かっていませんが、1年の間に新しくこの病気になる人の数は100万人当たり1人以下と見積もられています。患者さんの97%が白人です。子どもの場合男女差はなく、大人では男性やや多いです。
6.3主にどんな症状がでますか?
多くの患者さんで、副鼻腔のうっ血がみられます。抗菌薬や血流改善薬を飲んでも改善しません。また、鞍鼻(馬の鞍のような鼻)と呼ばれる鼻の変形が生じ、そのために鼻中隔にかさぶたができたり、鼻血や潰瘍ができたりします。
声門の下に炎症が起きると気道が狭くなり、嗄声(かすれ声)や呼吸の問題が生じます。肺に炎症が起きて結節ができると、浅い呼吸、咳、胸痛が生じます。
病気の初期には稀ですが、進行すると腎臓に炎症が起こります。尿検査の異常や、血液検査で腎臓の機能の異常がでます。高血圧にもなります。眼の奧に炎症が生じて目が飛び出すことがあります(眼球突出)。鼓膜の内側に炎症が生じて慢性中耳炎になることもあります。体重減少、疲労感、熱、寝汗、多彩な皮膚・粘膜の症状はよくある症状です。
MPAでは、主に腎臓と心臓に炎症が生じます。
6.4どのようにして診断しますか?
上気道と下気道、腎臓の症状がそろうと、GPAが疑われます。腎臓の症状としては、尿の中に血液やタンパク質が混入し、腎臓から体外に排出されるはずの不純物(尿素、クレアチニン)が血液中に蓄積します。
血液検査では、炎症反応(ESR、CRP)が上昇し、ANCA抗体価が上昇します。炎症部位を採取して顕微鏡で確認することが、診断の助けになるかもしれません。
6.5どのような治療法がありますか?
子どものGPAとMPAでは、コルチコステロイドとシクロホスファミドを組み合わせて寛解導入療法を行います。リツキシマブといった他の免疫抑制薬も、個々の患者さんに合わせて使用されることがあります。一旦病勢が落ち着いたら、病勢が落ち着いた状態を維持するための治療を行います(維持療法)。よく使用される薬は、アザチオプリン、メソトレキセート*、ミコフェノール酸モフェチル*です。
* 日本では保険未収載です。
追加の治療として、感染予防の抗菌薬(ST合剤)、血圧を下げる薬、血液を固まりにくくする薬(アスピリン、抗凝固薬)、痛み止め(
非ステロイド性抗炎症薬)が用いられます。
7.1どんな病気ですか?
原発性中枢神経血管炎(PACNS)は、脳・脊髄にある小〜中血管に炎症がおこる病気です。原因は不明です。一部の子どもさんでは、以前に水痘(水ぼうそう)になったことがきっかけではないかと考えられています。
7.2 病気の頻度は?
非常に稀です。
7.3 主にどんな症状がでますか?
症状は急に出ます。体の片側の麻痺、痙攣、激しい頭痛といった症状です。意識障害や行動異常などの、神経・精神症状がでることもあります。全身に炎症が及んで、熱が出たり血液検査で炎症反応が上昇することはありません。
7.4 どのようにして診断しますか?
中〜太血管の評価には、MR血管造影(MRA)と血管造影が行われます。病勢の評価のために、検査は繰り返し行うことが必要です。病気が進行しているのに検査で異常が出ない場合は、小さな血管の炎症が疑われます。小さな血管の炎症は、脳の一部を採取して顕微鏡で確認しないと分からないことがあります。
7.5 どのような治療法がありますか?
水ぼうそうの後に病気になったのであれば、コルチコステロイドを3ヶ月程度投与すれば、病気の進行は止まることが多いです。必要に応じて、抗ウィルス薬(アシクロビル)が使用されます。コルチコステロイドが必要なのは、血管造影で血管に異常があってかつ病気が進行していない状態に限ります。もし病気が進行しているときは、脳のダメージが蓄積するのを防ぐために免疫抑制剤を用いた強力な治療が必要です。病気の初期にはシクロホスファミドがもっともよく使用され、維持療法にはアザチオプリンやミコフェノール酸モフェチル*等が用いられます。血液を固まりにくくする薬(アスピリン、抗凝固薬)も必要です。
* 日本では保険未収載です。
皮膚白血球破砕性血管炎(過敏性とかアレルギー性血管炎とも呼ばれています)は、ある原因物質に対する過剰な反応で起こる血管炎です。子どもの場合、薬や感染がきっかけになる場合が多いようです。小さい血管に炎症が生じ、皮膚を採取して顕微鏡で確認すると、特徴的な像を認めます。
低補体血症性じんま疹性血管炎は痒みを伴った広範囲の蕁麻疹様紅斑です。通常の皮膚アレルギー反応のようにすぐには消退しません。血液中の補体値の減少がみられます。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EPA、以前はチャーグ・ストラウス症候群と呼ばれていました)は、子どもでは非常に珍しい血管炎です。皮膚や内臓の血管に炎症が生じ、喘息を伴うことが多く、血液中で好酸球の上昇を認めます。
コーガン症候群は稀な血管炎です。眼や内耳に炎症が生じ、まぶしく感じたり、めまい、難聴といった症状がでます。より広い範囲の場所で血管炎が生じて他の症状がでることもあります。
ベーチェット 病 に関しては、別の項で述べます。