ヘノッホ・シェーライン紫斑病 


版 2016
diagnosis
treatment
causes
Henoch-Schoenlein Purpura
ヘノッホ・シェーライン紫斑病
ヘノッホ・シェーライン紫斑病(HSP)とは、とても細い血管(毛細血管)に炎症がおきる状態です。この炎症は 血管炎 とよばれ、普通皮膚や、消化管、腎臓の小さな血管におこります。炎症を起こした血管は出血しやすくなり、紫斑と呼ばれる深い赤色、または紫色の皮疹を引き起こします。さらに腸管や腎臓でも出血が起こることがあり血便や血尿を引き起こします。  1
evidence-based
consensus opinion
2016
PRINTO PReS



1. ヘノッホ・シェーライン紫斑病とは

1.1 どんな病気ですか?
ヘノッホ・シェーライン紫斑病(HSP)とは、とても細い血管(毛細血管)に炎症がおきる状態です。この炎症は 血管炎 とよばれ、普通皮膚や、消化管、腎臓の小さな血管におこります。炎症を起こした血管は出血しやすくなり、紫斑と呼ばれる深い赤色、または紫色の皮疹を引き起こします。さらに腸管や腎臓でも出血が起こることがあり血便や血尿を引き起こします。 

1.2 よくある病気ですか?
よくある病気ではありませんが5才から15才までの小児におこる全身性の血管炎の中では最も多い病気です。2:1の割合で男児に多いです。
民族差や地域差はありません。ヨーロッパや北半球では多くは冬に発症しますが、秋や冬に発症することもあります。 およそ1年間に10万人に20人の小児に発症します。

1.3 原因はなんですか?
原因は不明です。ウイルスや細菌などの感染は病気のきっかけと考えられています。それは風邪などのあとによく見られるためです。しかし、薬剤、虫さされ、寒冷暴露、化学薬品や特定の食物を摂取することでおこることもあります。お子さんの感染に対する過剰な免疫反応が引き起こしているのかもしれません。
免疫グロブリンA(IgA)の様な特異的な免疫物質が沈着しているので、異常な免疫応答が皮膚、関節、消化管、腎臓、中枢神経系、精巣の小血管を攻撃し病気を引き起こしていることを示唆しています。

1.4 病気は遺伝性ですか?感染しますか?予防できますか?
HSPは遺伝性ではありません。感染することもありませんし、予防することもできません。

1.5 どんな症状がでますか?
はじめの症状はすべての患者さんに見られる独特な皮疹です。 これらは普通蕁麻疹のような赤い斑点か赤いふくらみで始まり次第に青あざのようになります。この皮疹はふくらみを触ることができるので「触れることのできる紫斑」と呼ばれます。紫斑は普通下肢や臀部に見られますが体の他の場所(上肢や体など)にもできることがあります。
多くの患者さん(65%以上)で膝や足首に痛み(関節痛)や腫脹がみられ、動かすことが困難(関節炎)になります。痛みや腫脹は手首や肘、指に見られることもあります。関節痛や関節炎では関節の周囲もはれたり、押さえると痛みがでます。 特に乳幼児では病気のはじめに手や足、額や陰嚢が腫れることがあります。
関節の症状は一時的なもので2、3日から数週間で消失します。
血管に炎症がおこると60%以上の人に腹痛が出現します。この腹痛は断続的で、臍の周りが痛くなり様々な程度の消化管出血(血便)を伴うことが特徴です。とても珍しいことですが、腸管が折り重なってしまう腸重積症がおこると,腸閉塞となってしまい手術が必要になることもあります。
腎臓の血管に炎症がおこってしまうと、20−35%の患者さんで出血してしまい血尿(尿に血が混じる)や蛋白尿(尿に蛋白が混じる)が起こります。腎臓に関しては普通重篤になることはありません。稀に1−5%の割合で、腎臓の異常が数ヶ月から数年続いてしまい腎不全になってしまうこともあります。これらの例では腎臓の専門家に相談し協力しながら治療をしていくことが必要です。
上に書いた症状は皮膚の症状がでる2−3日前に出現することもあります。
上に書いた症状の他には、痙攣、脳出血、肺出血や精巣の腫脹と行った血管の炎症による症状がまれに見られることがあります。

1.6 症状はみんな一緒ですか?
多少同じような症状がでることもありますが、皮膚症状の広がり方やどの臓器に症状がでるかは患者さんによって大きく異なります。

1.7 子どもと大人で症状は異なりますか?
症状に違いはありませんが、大人は滅多にかかりません。


2. 診断と治療

2.1 どうやって診断しますか?
臀部や下肢に紫斑があり、少なくとも腹痛、関節痛や関節炎の症状、血尿などの腎臓の症状の一つを伴えば、HSPと診断されます。他の似た症状を示す病気を否定しなければいけません。 ごく稀に、皮膚の生検(切り取って顕微鏡で見る検査)を行いIgAの存在を顕微鏡で確認する必要があることがあります。

2.2 どんな検査をしますか?
この検査をすればHSPと診断できるという検査法はありません。赤血球沈降速度(赤沈;ESR)、または、CRP(炎症反応)は正常値か上昇します。便潜血反応は少量の消化管出血をはかることができます。尿検査は腎臓の障害を確認するために経過中に行うことがあります。軽い血尿はよく見られますが自然に軽快します。 重症の腎障害(腎不全、重度な蛋白尿)がある場合には腎生検が行われます。超音波などの画像検査はHSP以外の腹痛の原因や腸閉塞などの合併症を確認するために行うことがあります。

2.3 治りますか?
多くの患者さんは治癒し治療を必要とはしません。 症状のある間はベッドの上で安静にしてもらいます。対症療法が中心で関節の症状に対してアセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬が痛み止めとして使われます。
消化器の症状や血便がひどいときや、たまにある他の臓器の症状があるときに ステロイド (内服か点滴)が使われます。もし腎臓の症状がひどいときは腎生検を行った後に必要があればステロイドと免疫抑制薬の併用が行われます。

2.4 副作用はありますか?
ほとんどの患者さんで薬による治療は必要ないか、とても短い期間しか行われません。そのため重篤な副作用は起こりません。滅多にないことではありますが、腎臓に重い問題があってステロイドと免疫抑制薬を長期間投与されるときには薬の副作用が問題になることがあります。

2.5 どれくらいで治りますか?
病気の始まりから終わりまではだいたい4−6週間です。HSPの患者さんの半分が6週間のうちに再発します。再発のときは初発時よりも軽症で早く治る事が多いです。再発したから重症ということはありません。大多数の患者さんが完全に治癒します。


3. 日常生活について

3.1 患児や家族は日常生活で何に気をつけなければなりませんか。どのような定期受診が必要ですか?
多くは自然に治癒し、問題が続くことはありません。ただし少数ですが、重症または持続する腎障害があるような場合には最終的に腎不全になる可能性があります。一般的には子どもさんも家族も普通の日常生活を送ることができます。
治癒してから半年程度までは尿検査が行われます。これは発症から数週間から数ヶ月後でもおこってくることのある腎障害を発見するためです。

3.2 学校にいってもいいですか
病気が落ち着くまでは運動制限を行い、安静を保つ必要があります。病状が落ち着いた後は登校を再開することもできますし、これまで通りの生活、健康な友人と同じ活動ができます。子どもにとっての学校は大人にとっての仕事と同じです。つまり自立と自活の方法を学ぶ場所です。

3.3 運動はできますか?
特に運動の制限はありません。そのため、一般的には運動への参加は勧められます。もし関節症状がある場合は、運動による怪我を避けるように体育の先生に伝えて下さい。機械的なストレスは炎症のある関節にはよくありませんが、ちょっとした怪我は、疾患を理由に友人と運動する機会を失うことによる精神的なダメージよりずっと小さいものです。

3.4 食事制限はありますか
食事が病気に影響を与えることはありません。一般的に子どもは年齢に応じたバランスのとれた食事をするべきです。健康的でバランスのとれた(蛋白、カルシウム、ビタミンの含まれた)食事が成長期の子供たちには必要です。ステロイドは食欲増進作用があるので、ステロイドの飲んでいるときには食べ過ぎには気をつける必要があります。

3.5 天気が症状に影響を及ぼすことはありますか?
そのようなデータはでていません。

3.6 ワクチンの投与はしてもいいですか?
ワクチン接種は延期する必要がありますが、再開時期についてはかかりつけ医と相談しましょう。概して、ワクチンが症状を悪化させたり、副作用を引き起こすこともありません。高用量の免疫抑制薬や生物学的製剤を使用しているときは、理論的には感染してしまう危険性があるので、生ワクチンはさけるべきです。

3.7 妊娠は可能ですか
通常の性活動や妊娠には何の制限もありません。しかし投薬治療を受ける際には胎児に影響があるかもしれないので、起こりうる副作用について充分注意しておくべきです。家族計画や妊娠に関しては主治医の先生に相談しましょう。


 
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