1.1 強皮症とはどんな病気ですか?
強皮症(scleroderma)とはギリシャ語で"硬い皮膚"という意味です。皮膚は光沢を帯び、硬くなります。強皮症には限局性強皮症と全身性強皮症の二つの異なる型があります。
限局性強皮症では、病変は皮膚と皮下組織に出現し、眼のブドウ膜炎や関節炎をおこすこともあります。皮膚所見では斑点状(モルフェア)や硬い帯状(線状強皮症)を呈することがあります。
全身性強皮症では、病変は広範囲にみられ、皮膚だけではなく内臓にもあらわれます。
1.2 頻度はどれくらいですか?
強皮症は稀な疾患です。1年間に発症する頻度は人口10万人あたり3人以下です。小児では限局性強皮症がほとんどであり、女児に多く、全身性強皮症は全体の10%未満にすぎません。
1.3 原因は何ですか?
強皮症は炎症性疾患ですが、炎症を引き起こしている原因は不明です。おそらく、免疫機能が誤って自分自身の組織を攻撃してしまう自己免疫疾患だろうと考えられています。その炎症は腫れや熱感を生じ、さらには線維組織の過剰な生産・蓄積を引き起こします。
1.4 遺伝しますか?
これまで遺伝性は明らかにされていませんが、家族内の発症が数例報告されています。
1.5 予防はできますか?
予防法はありません。あなたが親や患者だとしても強皮症の発症を防ぐために行えることは何もなかったのです。
1.6 感染しますか?
いいえ、感染しません。いくつかの感染症が強皮症の発症の引き金になっているかもしれませんが、病気自体は感染症ではないので、他の子から隔離する必要はありません。
2.1 限局性強皮症について
2.1.1 どのようにして診断しますか?
皮膚の硬化がみられたらこの病気を考えます。病初期には、しばしば縁が赤や紫、または脱色素化した斑点がみられます。これは皮膚の炎症によるものです。病気が進行すると皮膚は白色人種では茶色になった後に白くなります。非白色人種ではあざのようにみえてから白くなります。診断は典型的な皮膚の所見からつきます。
線状強皮症では腕や足、体幹に線状に皮膚の病変が出現します。炎症が皮下組織のみならず、筋肉や骨に及ぶことがあります。時に線状強皮症は顔や頭皮に出現することがあり、その時にはブドウ膜炎の発症の危険性が高くなります。ほとんどの場合、血液検査は正常です。限局性強皮症では重篤な内臓障害は合併しません。しばしば皮膚生検が診断の手助けとなります。
2.1.2 限局性強皮症の治療法は?
治療の目標はできる限り早期に炎症を抑えることです。一旦、線維化が起きた部位には、治療の効果はほとんどみられません。
線維化は炎症の最終段階です。治療のゴールは炎症をコントロールし、線維化を最小限に抑えることです。炎症が治まると線維化した組織がある程度吸収されるため、皮膚は再び柔らかくなります。
治療は病気の程度により様々で、無治療の場合もあれば、
ステロイド や
メトトレキセ ート、免疫調整剤を用いる場合があります。これらの治療法については、長期間の使用での有効性と安全性が示された研究があります。治療は小児リウマチ専門医かまたは皮膚科専門医が進めていくべきです。
多くの症例では、炎症は自然に軽快しますが、数年かかります。また、ある症例では、炎症が何年も続いた後に炎症が治まり、瘢痕化する場合もあります。より重度の病変を有する症例では、より積極的な治療を必要とするかもしれません。
特に線状強皮症では理学療法が重要となってきます。関節をまたいで皮膚が硬くなったときには、ストレッチや深部結合組織に対しての適切なマッサージによって、関節の可動域を保つことが重要になってきます。また、短くなった方の脚の靴の中にインソールを使用すれば、機能的な脚の長さが同じになり、立つ時や歩く時、または走る時の脚の負担を軽くできます。
皮膚の色素の変化により外観が気になるときには、特に顔の場合には、化粧などでかくすことができます。
2.1.3 限局性強皮症の長期的予後は?
限局性強皮症の進行は、通常は、数年間に限られています。皮膚の硬化は発症後数年間で止まりますが、活動性はもう少し長く続きます。モルフェア(斑点状)では、通常は、皮膚の色が変わるような見かけの問題を残すだけであり、数年後には硬くなった皮膚は柔らかくなり、正常な皮膚のように見えます。時に、炎症が治まった後でも、皮膚の色調の変化のため、病気が残っているようにみえることもあります。
小児の線状強皮症では、病気が起こっている筋肉や骨の発達が妨げられて、不均衡な発達をきたすことがあります。そして、関節をまたいだ線状強皮症では、治療がうまくいかないと、関節炎を起こして拘縮をきたすこともあります。
2.2 全身性強皮症について
2.2.1 どのようにして診断しますか?主な症状は何ですか?
強皮症の診断は主に臨床診断となります。つまり、その症状や身体所見が最も重要な指標となります。一つの検査で強皮症と診断できる検査はありません。臨床検査は、強皮症に似ている他の疾患を除外することや、強皮症の活動性がどれくらいか、また、病変が皮膚以外の臓器にまで及んでいるかを評価するために用いられています。病初期の症状には、寒冷刺激により手足の指先の色が変わること(レイノー現象)や指先の皮膚潰瘍があります。指先やつま先の皮膚は、しばしば早期に硬くなって光沢を帯び、鼻の皮膚も同じようになります。皮膚の硬化は徐々に広がり、最終的には全身に広がる症例もあります。指先のむくみや関節の痛みも病初期にみられることがあります。
病気の経過中に、小血管が拡張してみえるようになる毛細血管拡張症や、皮膚と皮下組織の委縮によるたるみ、カルシウムが皮下組織に沈着する皮下石灰化症などの皮膚の変化がみられることがあります。内臓にも病変が及ぶ時があり、その長期予後は内臓病変の病型と重症度によって決まります。内臓病変(肺や消化管、心臓など)の評価やそれぞれの機能を評価することが重要です。
小児では多くの人が食道の病変を生じます。これらは、しばしば、非常に早い段階で生じ、胃酸が食道に逆流して胸焼けをおこしたり、固形物が呑み込みにくくなったりします。その後、病変は消化管全体に及び、腹部膨満や消化不良を引き起こすこともあります。肺病変もよく起こり、長期予後に大きく影響します。心臓や腎臓などの他の臓器にも病変があるかどうかも予後に大きな影響を与えます。しかし、強皮症には特徴的な血液検査所見はありません。全身性強皮症の治療に際しては、主治医が定期的に他の内臓疾患に病変が及んでいないか、または病勢が悪化していないかを評価していきます。
2.2.2 小児の全身性強皮症の治療法は?
強皮症の治療経験のある小児リウマチ専門医が、心臓や腎臓の専門医と相談をしながら、最も適切な治療法を選択します。
メトトレキサ ートや
ミコフェノール酸(日本では保険適応外)と同様に
ステロイド が使われています。肺や腎に病変がある場合には、
シクロフォスファミド が使用されます。レイノー現象に対しては、常に温かくして血行をよくすることで、皮膚の潰瘍形成を予防します。時には血管拡張薬が必要になる場合もあります。どの全身性強皮症にも明らかに効果のある治療法はまだ確立していません
それぞれの患者に対しての最も有効な治療法は、これまでの全身性強皮症の患者に効果的であった治療法から決定し、それがその患者に有効かどうかを確認していていくことが必要です。
現在、他の治療法が研究されており、ここ数年のうちには、より効果的な治療法が見つかると思われます。重篤な例では、自家骨髄移植が考慮されます。
罹患中は、関節や胸郭の動きを保つために、理学療法や硬化した皮膚のスキンケアが必要です。
2.2.3 全身性強皮症は、どのような経過をたどりますか?
全身性強皮症は、生命にかかわることもあります。内臓病変(心臓や腎臓、肺)の程度は人によって様々であり、それらの程度により長期予後が決まってきます。人によっては、病勢が長期間安定することもあります。
3.1 病気はどれくらい続きますか?
限局性強皮症の進行は、通常は数年以内に止まります。皮膚の硬化は、発症から数年以内で止まることがしばしばです。ときには、5-~6年ほどかかることもあり、炎症が治まっても皮膚の色素の変化のために、斑点が目立ってくることもあります。また、病気による影響を受けた部位と受けていない部位では成長によって差が生じるために、病気が増悪しているようにみえることもあります。全身性強皮症は、長期にわたる病気ですが、早期に適切な治療をうけることで、その期間を短くすることができます。
3.2 完全になおりますか?
小児の限局性強皮症は治ります。色素が沈着したところはそのままですが、硬くなった皮膚は時間がたつと柔らかくなります。全身性強皮症が完全に治ることはほとんどありません。しかし、大きく改善したり、少なくとも進行していない状態になったりすることで、日常の生活の質が下がらなくなることができます。
3.3 他の治療法はどうですか?
多くの補完代替療法があり、患者やその家族を混乱させることがあります。これらの治療は効果を証明されたものは少なく、時間的にも経済的にも負担がかかることも考えられるために、これらを選択する際には、治療のリスクとベネフィットを慎重に検討してください。もし、あなたが補完代替療法を探そうとしているなら、あなたの主治医である小児リウマチ専門医に相談をしてください。いくつかの治療法は従来の治療法と相互作用をすることがありえます。ほとんどの医師は反対することはなく、あなたに医学的なアドバイスをするでしょう。この際に重要なことは、処方された薬の服用を中止しないことです。病気の活動性があり、病勢をコントロールするのにその服薬が必要な時に、服薬をやめることはとても危険なことになります。どうか、あなたのお子さんの主治医と薬についての話し合いをしてください。
3.4 日常生活では、こどもや家族にどのような影響を与えますか?
また、どのような定期検診が必要ですか?
どの慢性疾患でもみられるように、強皮症は子どもとその家族の日常生活に影響を与えます。病勢が軽度で、主要な内臓の病変がなければ、一般的に子どもも家族も通常の生活がおくれます。しかし、強皮症の子どもは疲れやすく、循環不良のために頻繁に体位変換を行う必要があるということを覚えておくことは重要です。疾患の進行を評価し、治療方針を修正するために定期検診は必要です。全身性強皮症では経過中のどの時点においても、主要な臓器(肺や消化管、腎臓、心臓)の病変が起こる可能性があるので、各臓器の定期的な機能評価は、病変の早期発見のためには必要なのです。
薬剤を用いているときには、その副作用のチェックのために定期的な検査も必要です。
3.5 学校はどうですか?
慢性疾患を持つ子どもに教育を続けることは非常に重要なことです。学校で学ぶことに対して問題となることもあるかもしれません。そのため、先生に子どもが必要とすることについて説明をしておくことは大切なことです。可能な限り、体育の授業も以下に述べる理由から受けるべきと考えます。現在受けられる治療によって、疾患のコントロールが良好であれば、その子どもは、健康な仲間と同じすべての活動に参加することに何ら問題はないはずです。子どもにとっての学校は、大人にとっての仕事のようなもので、どのように自立し、どのように働いていくかを学ぶところです。子どもが勉強をできるようになるだけではなく、仲間や大人たちから受け入れられ、そして、理解されていけるように、親や教師は、子どもが通常の方法で学校の活動に参加できるように可能なことはなんでもすべきです。
3.6 スポーツはどうですか?
スポーツをすることはこどもの日常生活において大事なことです。治療の目標の一つは、子ども達ができるだけふつうの生活をおくり、他の健康な仲間となんら変わりがないと考えられるようになることです。そのため、一般的に推奨されていることは、参加する運動を自分たちで選ぶことを許可し、痛みや違和感などによる限界が生じたら自ら運動を止めることを信じてあげることです。この選択は、子どもの自主性を育て、病気による制限に対しても自分自身で対応できる術をそだてます。
3.7 食事療法はどうですか?
食事が病気に影響を与えうるという証拠はありません。一般的に、その年齢にあったバランスのよい食事をとるべきです。十分なたんぱく質やカルシウム、ビタミンを含んだバランスのよい食事が成長期の子ども達に勧められています。ステロイドを内服していると、食欲が増加する可能性がありますので、過食はさけるようにすべきです。
3.8 気候による影響はありますか?
気候が病気の症状に影響をあたえるという証拠はありません。
3.9 ワクチン接種はできますか?
強皮症の方は、どのようなワクチンであっても、接種前に主治医に相談をすべきです。そうすれば、主治医は、患者毎にどのワクチンを接種できるかを判断するでしょう。全体的に、ワクチン接種で強皮症の活動性が悪化することや重篤な副作用が生じることはないようです。
3.10 性活動や妊娠、避妊についてはどうですか?
病気によって、性活動や妊娠が制限されることはありません。しかし、薬を服用している間は、常に、薬剤が胎児に与える影響について気に留めておかなければいけません。避妊や妊娠について主治医に相談することを勧めます。