メバロン酸キナーゼ欠損症 (MKD) (または高IgD症候群) 


版 2016
diagnosis
treatment
causes
Mevalonate Kinase Deficiency (MKD), or Hyper IGD Syndrome
メバロン酸キナーゼ欠損症 (MKD) (または高IgD症候群)
メバロン酸キナーゼ欠損症は体の化学反応に必要な酵素の先天異常による遺伝性の病気です。患者では繰り返す発熱とともに様々な症状が出現します。症状としては痛みのあるリンパ節腫脹 (特に頸部に) 、皮疹、頭痛、のどの痛み、口の中の潰瘍、腹痛、嘔吐、下痢、関節痛や関節腫脹があります。重症の患者では生命に関わる発熱発作、発達の遅れ、視力や腎臓の障害が見られることもあります。患者の多くでは血清中のIgDが上昇するために、「高IgD症候群」という別名がついています。 1
evidence-based
consensus opinion
2016
PRINTO PReS
1.メバロン酸キナーゼ欠損症とはどんな病気ですか?
2.診断と治療
3.日常生活



1.メバロン酸キナーゼ欠損症とはどんな病気ですか?

1.1どのような病気ですか?
メバロン酸キナーゼ欠損症は体の化学反応に必要な酵素の先天異常による遺伝性の病気です。患者では繰り返す発熱とともに様々な症状が出現します。症状としては痛みのあるリンパ節腫脹 (特に頸部に) 、皮疹、頭痛、のどの痛み、口の中の潰瘍、腹痛、嘔吐、下痢、関節痛や関節腫脹があります。重症の患者では生命に関わる発熱発作、発達の遅れ、視力や腎臓の障害が見られることもあります。患者の多くでは血清中のIgDが上昇するために、「高IgD症候群」という別名がついています。

1.2患者の数はどのぐらいですか?
まれな病気です。すべての人種で見られます。なかでもオランダ人に多いですが、オランダでもまれな病気です。発熱発作は多くの患者で6歳までに、通常は幼児期に始まります。メバロン酸キナーゼ欠損症は男児、女児とも同じ頻度で見られます。

1.3病気の原因は何ですか?
メバロン酸キナーゼ欠損症は遺伝性の病気です。責任遺伝子はMVKと呼ばれ、遺伝子産物はメバロン酸キナーゼです。メバロン酸キナーゼは酵素であり、健康でいるために必要な生体の化学反応を可能にするタンパクです。これはメバロン酸をホスホメバロン酸に変換する反応です。患者では2つのアリルのMVKが障害されているため、メバロン酸キナーゼの活性が不十分になります。その結果メバロン酸が蓄積し、発熱時に尿中メバロン酸が高値となります。臨床的には繰り返す発熱をきたします。MVK遺伝子の変異が強いほど、重症度は高くなります。遺伝性の病気ですが、発熱発作は予防接種、ウイルス感染、外傷、精神的ストレスで誘発されることもあります。

1.4遺伝しますか?
メバロン酸キナーゼ欠損症は常染色体劣性形式で遺伝します。父親、母親から受け継いだ2つの遺伝子両方に疾患関連変異があり発症します。そのため、両親は通常保因者 (1つだけ疾患関連変異を持つが発症しない)であり患者ではありません。そのようなカップルの場合、次の子どもがメバロン酸キナーゼ欠損症となる確率は1/4です。

1.5なぜ私の子どもはこの病気にかかったのでしょうか?防ぐ方法はないのでしょうか?
メバロン酸キナーゼ遺伝子の両方に疾患関連変異があるためこの病気になります。この病気は予防できません。非常に重症の家系では、出生前診断を考慮する場合があります。

1.6他人へ伝染しますか?
いいえ、伝染しません。

1.7どういう症状が出ますか?
主な症状は発熱で、多くは悪寒から始まります。発熱は3-6日間続き、数週から数カ月の不規則な間隔で繰り返します。発熱発作に伴って様々な症状が見られます。症状としては痛みのあるリンパ節腫脹 (特に頸部に) 、皮疹、頭痛、のどの痛み、口の中の潰瘍、腹痛、嘔吐、下痢、関節痛や関節腫脹があります。重症の患者では乳児期に生命に関わる発熱発作、発達の遅れ、視力低下や腎臓障害を伴います。

1.8症状はどの子でも同じですか?
症状は患者によって違います。さらに発作の型や期間、重症度は同じ子であっても、発作のたびに違うことがあります。

1.9この病気は小児と成人で違いはありますか?
患者が成長するに伴って、発熱発作は頻度が減り、軽症化します。しかし病気の活動性の一部は、すべてではないにしてもほとんどの患者で残ります。成人患者の中には、異常タンパクの沈着による臓器障害であるアミロイドーシスをきたす人もいます。


2.診断と治療

2.1どのように診断しますか?
化学的な検査と遺伝子検査で診断します。
化学的検査として、異常に高い濃度のメバロン酸が尿中に検出されます。専門機関では血液もしくは皮膚の細胞のメバロン酸キナーゼ活性を測定することができます*。遺伝子検査は患者DNAで行い、MVK遺伝子の疾患関連変異が同定されます。 *日本では京都大学小児科で測定可能です(2015年現在)。
血清IgD濃度の測定は、メバロン酸キナーゼ欠損症の診断に必要な検査とは考えられていません。

2.2検査で重要なものは何ですか?
上記のとおり、メバロン酸キナーゼ欠損症の診断には様々な検査が重要です。
赤沈 (ESR) やCRP、血清アミロイドA蛋白 (SAA) 、白血球数やフィブリノゲンは発作時の炎症の程度を評価するために重要です。患者の症状が治まった後もこれらの検査を行い、結果が正常に戻った、あるいは正常に近くなったかを繰り返し評価します。
尿中のタンパクや赤血球の有無も調べます。発作期には一時的に変化することがあります。アミロイドーシスのある患者では持続的にタンパク尿が見られます。

2.3治療法や根治療法はありますか?
この病気を完治させたり、疾患活動性を制御できると証明された有効な治療法はありません。

2.4治療としてどのようなものがありますか?
メバロン酸キナーゼ欠損症の治療にはインドメサシンなどの非ステロイド抗炎症薬 (NSAIDs) 、プレドニゾロンなどの ステロイド、エタネルセプトやアナキンラ*などの 生物学的製剤 があります。すべての患者さんに有効という薬剤はありませんが、どの薬も患者さんの一部には有効のようです。メバロン酸キナーゼ欠損症に対する有効性や安全性のデータはまだそろっていません。 *アナキンラは本邦で未承認薬

2.5薬物療法の副作用にはどんなものがありますか?
副作用は薬剤によって異なります。NSAIDsは頭痛、胃潰瘍、腎障害を、ステロイドや生物学的製剤は感染症にかかりやすい状態を引き起こす場合があります。またステロイドは、様々な副作用を引き起こす場合があります。

2.6治療期間はどのくらいになりますか?
一生治療を続けることを支持するデータはありません。成長するに従って症状が軽減する傾向を考えると、症状が落ち着いている患者では治療をやめてみるのがおそらく賢明でしょう。

2.7代替治療、補完療法はありますか?
有効な補完療法の報告はありません。

2.8どのような定期的な受診・検査が必要ですか?
治療を受けている子どもは少なくとも年2回、血液と尿検査を受けるべきです。

2.9病気はどのくらい続きますか?
年齢とともに症状は軽減するかもしれませんが、この病気は一生続きます。

2.10長期的予後(予想される結果や経過)はどのようなものですか?
年齢とともに症状は軽減するかもしれませんが、メバロン酸キナーゼ欠損症は一生続きます。非常にまれに、臓器障害をきたし、特にアミロイドーシスのために腎障害をきたすことがあります。非常に重症の患者では、知的障害や夜盲をきたすことがあります。

2.11完全に治る可能性はありますか?
いいえ、遺伝性の病気のためありません。


3.日常生活

3.1病気のために子どもと家族の日常生活にはどういう影響がありますか?
頻回の発作が生活に影響して、両親あるいは本人の仕事の妨げになるかもしれません。多くの場合正しい診断がつくまでに時間がかかり、家族が不安に感じたり不要な治療を受けたりすることがあるかもしれません。

3.2学校についてはいかがですか?
頻回の発作は学校への出席の妨げとなります。病気について情報及び学校で発作が起きた場合の対処法について、学校の先生にあらかじめ知ってもらう必要があります。

3.3スポーツはできますか?
運動の制限はありません。しかし頻繁な試合もしくは練習への不参加により、競争の激しい団体競技への参加は難しくなるかもしれません。

3.4食事についてはいかがですか?
特別な食事は必要ありません。

3.5天候は病気の経過に影響しますか?
天候の影響はありません。

3.6予防接種を受けることができますか?
はい、予防接種を受ける事ができかつ受けるべきです。ただし予防接種により発熱発作を誘発する場合もあります。
子どもが治療を受けている時は、弱毒化生ワクチンの予防接種を受ける事を、治療担当医師に伝えるべきです。

3.7 性生活、妊娠、避妊についてはいかがですか?
メバロン酸キナーゼ欠損症の患者は通常の性生活を行い、自身の子どもを持つことが可能です。妊娠中は発作が減る傾向にあります。患者と血族関係にあるパートナーでなければ、メバロン酸キナーゼ欠損症の保因者と結婚する可能性は非常に低いです。パートナーがメバロン酸キナーゼ欠損症の保因者ではない場合、その子どもがメバロン酸キナーゼ欠損症を発症する事はほぼありません。


 
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