1.1 JIAとは?
若年性特発性関節炎(JIA)は持続する関節炎を特徴とする慢性疾患です。関節炎の典型的な所見は疼痛、腫脹、可動域制限です。"特発性"とは原因不明を意味し、"若年性"は、この場合、16歳未満で発症したことを意味します。
1.2 慢性疾患とは?
適切な治療が必ずしも治癒をもたらすとは限らず、症状や検査値を改善させるにとどまる病気が、慢性疾患と言われています。
慢性疾患と診断されることは、子どもさんの病気がどれくらい長引くのか予想できないことを意味しています。
1.3 JIAの頻度は?
JIAは比較的稀な疾患で、1000人に1-2人程度の頻度とされています。
1.4 JIAの原因は?
私達の免疫システムは細菌やウイルスなどの様々な微生物から身体を守ってくれます。免疫システムのおかげで私たちは人体に有害なもの、身体から排除すべき異物を判別することができます。
慢性関節炎は私たちの体の免疫応答が異常な反応を示したものと考えられています。つまり、自分の体と外界の異物を見分ける能力が低下して、自己を攻撃してしまったため、例えば関節面に、炎症が起きるのです。このような理由で、JIAのような疾患は、免疫応答が自らの体に対して反応してしまう疾患、つまり自己免疫疾患と呼ばれるのです。
しかし、ほとんどの慢性炎症性疾患と同様に、JIAの原因については明確には分かっていません。
1.5 JIAは遺伝性疾患ですか?
JIAは親から子どもに直接的に伝わるものではないので、遺伝性疾患ではありません。しかしながら、大部分は明らかではありませんが、個々をJIAに向かわせるような、なんらかの遺伝的要因はあります。現在の科学的な見解では、JIAは遺伝的な要因と、外部からの要因(おそらくは感染症)の2つが組み合わさって、発症すると考えられています。例え、遺伝的要因があったとしても、同じ家族内で二人の子どもがJIAになることは極めて稀です。
1.6 診断について
JIAの診断は、持続する関節炎が存在し、既往歴や診察、血液検査などにより、その他の疾患を注意深く除外することで行われます。
JIAとは、16歳未満で発症し、関節炎が6週間以上持続し、関節炎を引き起こすその他の全ての疾患が除外された疾患です。
6週間以上とされる理由は、さまざまな感染症に伴う一過性の関節炎など、その他の原因を除外するためです。JIAの定義は小児期に発症する原因不明の持続する関節炎を全て含みます。
JIAは定義された異なるタイプの関節炎を含みます(以下参照)。
JIAの診断は、持続する関節炎の存在と、既往歴や診察、血液検査によって慎重にその他の疾患を除外することで行われます。
1.7 関節では何が起きているのか?
関節滑膜は、関節包の表面を覆う薄い膜ですが、関節炎が起こると炎症細胞と炎症組織が現れて滑膜は肥厚し、関節内で大量の滑液を産生します。これによって、関節の腫脹と疼痛、可動域制限が起こります。関節炎に特有な症状は関節のこわばりで、長時間の休息の後に起こり、特に朝方に目立ちます(朝のこわばり)。
JIAの子どもは、痛みを和らげるために、関節をやや曲げた状態を保とうとします。この肢位は、痛みを和らげることを目的とした"疼痛逃避肢位"と呼ばれています。もしも長期間(通常は1か月以上)この状態が続けば、筋肉や腱が短くなり(拘縮)、関節の屈曲変形を来してしまいます。
適切に治療されなければ、関節炎は主な2つの機序で関節破壊を来すでしょう。滑膜は (パンヌスと呼ばれる肉芽形成を伴って)肥厚し、様々な物質を放出することで、関節軟骨や骨にダメージを与えます。この現象は、X線写真では「骨びらん」と呼ばれる小さな骨の穴として現れます。長期間の"疼痛逃避肢位"は、関節変形の原因となる筋肉の委縮(筋肉の減少)や筋肉・結合組織の伸展や牽引を引き起こします。
2.1 JIAには異なるタイプがあるのか?
JIAにはいくつかの病型があります。それらは主に罹患関節の数(少関節炎または多関節炎)や、それに付随する発熱や皮疹などその他の症状(次項を参照)によって判別されます。病型の診断は、発症後6か月間の症状を観察することで行われます。そのため、これらの病型は、しばしば「発症病型」として参照されます。
2.1.1 全身型JIA
全身型とは、関節炎に加えて、全身の様々な臓器が影響を受けることを意味しています。
全身型JIAは、発熱、皮疹、さまざまな臓器の強い炎症などが、関節炎の出現前、あるいは関節炎の持続中に出現することが特徴です。高熱が長く続き、皮疹が発熱時を中心に出現します。その他の症状として、筋肉痛、肝臓・脾臓・リンパ節の腫大、心臓(心外膜炎)や肺の膜(胸膜炎)の炎症などがあります。通常5関節以上に見られる関節炎は、発症時からみられることもあれば、その後の経過中に起きることもあります。この疾患に男女差はなく、どの年齢でも起こりますが、特に幼児期や就学前に発症することが多いです。
およそ半数の患者で、発熱や関節炎がみられる期間は限られています。このような患者の予後は良好です。残り半分の患者では、発熱は起きなくなるものの、関節炎が問題となり、時に治療に難渋します。そのような患者の中の一部には、発熱と関節炎が持続するものもいます。全身型JIAはJIA全体の中の10%以下にとどまります*。小児では良くある病気ですが、成人では稀です。
*日本では全身型がJIA全体の42%を占め、最も多い病型です。
2.1.2 多関節炎JIA
多関節炎JIAは発熱を伴わず、発症後6か月間の罹患関節が5関節以上であることが特徴です。血液検査によってリウマトイド因子(RF)を測定して、RF陽性多関節炎とRF陰性多関節炎の二つを区別します。
RF陽性多関節炎JIAは小児では非常に稀です(JIA全体の5%未満)*。成人のリウマトイド陽性関節リウマチ(成人で最も頻度の高い慢性関節炎)に近い病態です。この病型は、しばしば全身の関節炎を引き起こし、初期には手足の小関節から始まり、その他の関節にも拡がっていきます。性差では女性に多く、男性では稀で、多くは10歳以降に発症します。
*日本ではJIA全体の18%を占めます。
RF陰性多関節炎:JIA全体の15-20%を占めます*。発症年齢に偏りはなく、大関節・小関節のいずれにも炎症を起こし得ます。
*日本ではJIA全体の14%を占めます。
どちらの病型であっても、診断が確定し次第、治療計画を早期に立てる必要があります。なぜなら、早期に適切な治療を開始することで、より良い治療効果が得られると考えられているからです。治療に対する反応は、一人ひとりの患者で異なります。
2.1.3 少関節炎(持続型または進展型)
少関節炎はJIAの中で最も頻度の高い病型で、全体の50%近くを占めます*。臨床症状としては発症後6か月以内の罹患関節が5関節未満で、かつ全身症状を伴わないのが特徴です。多くは、膝や足首などの大関節に、非対称性の関節炎を起こします。時には、罹患関節が1関節のこともあります(単関節炎)。患者によっては、発症後6か月以降に炎症関節が5関節以上に増えることもあり、これは進展型少関節炎と呼ばれます。全経過を通じて炎症関節数が5関節未満であれば、持続型少関節炎と呼ばれます。
*日本ではJIA全体の20%に留まります。
少関節炎は、通常は6歳未満で発症し、女児に多い病型です。適切な時期に適切な治療介入ができれば、炎症関節が進展しないタイプでは、しばしば関節予後は良好です。しかし進展型とされるタイプにおいては、その関節予後は様々です。
少関節炎のかなりの割合の患者は、眼球前半分の内側を覆う血管が豊富な膜(ぶどう膜)に炎症が生じます(前部ぶどう膜炎)。ぶどう膜の前半分は虹彩と毛様体で構成されるため、慢性虹彩毛様体炎または慢性前ぶどう膜炎と呼ばれます。JIAのぶどう膜炎は(痛みや発赤などの)自覚症状を伴わずに、ひそかに進行する慢性病態です。もし診断されずに無治療のままでいると、前部ぶどう膜炎は進行し、極めて深刻な障害を眼に残すことがあります。そのため、この合併症を早期に見つけることは極めて重要です。外観上、眼は充血しませんし、患児も見えにくさを訴えないので、両親や医師は前部ぶどう膜炎には気づきません。ぶどう膜炎のリスク因子は、発症年齢が早いことや抗核抗体が陽性であることです。
そのため、ぶどう膜炎の合併リスクが高い患児は定期的に眼科医による細隙灯顕微鏡での検査を受けることが必要です。検査の頻度は、多くの場合3か月毎に長期にわたって行われます。
2.1.4 乾癬性関節炎
乾癬性関節炎は乾癬を伴った関節炎が特徴です。乾癬は皮膚の炎症病変で、肘や膝などにしばしばみられるまだら状の落屑を伴う皮疹です。時には乾癬が爪のみにみられたり、家族歴だけがあることもあります。皮疹は関節炎に先だって出現することも、遅れて出現することもあります。この病型を疑う典型例の症状としては、指全体やつま先全体の腫脹(いわゆる、ソーセージ様指や指炎)や、爪の変化(点状陥凹)があります。1親等(両親やきょうだい)に乾癬があることもあります。慢性前ぶどう膜炎も起こりえるため、定期的な眼科検査が推奨されます。
疾患予後もさまざまで、皮膚と関節における治療反応も異なることがあります。もし炎症関節が5関節未満である場合は少関節炎の、5関節以上であれば多関節炎JIAの治療に準じます。この違いは、関節炎と乾癬の両方に対する治療反応と関連しているようです。
2.1.5 付着部炎関連関節炎
最も頻度の高い症状は、下肢の大関節を中心とした関節炎と、腱付着部炎です。付着部炎は腱が骨に付着する部位である腱付着部(例えば、踵など)の炎症を意味します。この部位に限局した炎症は、しばしば激しい痛みを伴います。もっとも頻度の高い付着部炎は、アキレス腱の付着部位である足底から踵の後方に起こります。付着部炎の患者は、時に急性の前部ぶどう膜炎を起こすこともあります。この場合、JIAの他の病型と異なって、通常は充血や流涙、羞明を伴います。ほとんどの患者において、HLA B27は陽性になります。この結果は遺伝的にこの疾患を発症しやすいことを示しています。この病型は男児に多く、6歳以降でよく発症します。疾患予後はさまざまで、時間経過で自然に治まることもあれば、下部脊椎や骨盤に接する関節、仙腸関節にまで炎症が波及し、脊椎の可動域が制限されることもあります。腰痛がこわばりを伴って朝に出現する場合、脊椎関節に炎症があることが強く疑われます。実際、この病型は、強直性脊椎炎と呼ばれる大人の脊椎疾患と類似しています
2.2 慢性虹彩毛様体炎の原因は?関節炎との関連は?
眼炎(虹彩毛様体炎)は、眼球に対する異常な免疫反応(自己免疫)によって起こります。しかし、その正確なメカニズムは明らかとなっていません。眼における合併症は、主に早期発症のJIA患者や抗核抗体陽性の患者においてみられます。
眼病変と関節炎を関連付ける因子は分かっていません。しかし、関節炎と虹彩毛様体炎はそれぞれ独立した経過を辿ることを認識することは重要です。眼の炎症は、たとえ関節炎が良くなっても、自覚症状なしに再燃することがあるので、関節炎が寛解した場合であっても、細隙灯顕微鏡による眼科検査は継続すべきです。虹彩網様体炎の経過の特徴は、関節炎とは無関係に周期的に再燃することです。
虹彩毛様体炎は、通常、関節炎発症後に出現しますが、関節炎と同時に見つかることもあります。稀には、虹彩毛様体炎が関節炎に先行することもあります。その場合が最も不幸なケースで、自覚症状が乏しいために、診断の遅れは視力障害を引き起こします。
2.3 JIAの関節炎は成人とは異なりますか?
多くの場合異なります。RF陽性多関節炎に関しては、成人における関節リウマチと70%程度の相同性はありますが、これはJIA全体の5%未満*にすぎません。小児早期に発症する関節炎の50%*を占める少関節炎JIAは、成人にはみられません。全身型JIAは小児では特徴的ですが、成人では稀です。
*日本ではそれぞれ18%、20%を占めています。
3.1 どのような検査が必要か?
診断において、血液検査と一緒に、関節評価や眼に関連する検査を行うことは、JIAの病型を明確にしたり、慢性虹彩毛様体炎などの特異的な合併症のリスクを評価する意味で有用です。
リウマトイド因子は血液検査で検出できる自己抗体で、抗体価が陽性で持続的に高値であれば、JIAの一病型であることを示しています。
抗核抗体(ANA)は、しばしば早期発症の少関節炎JIAで陽性となります。このような患者さんは慢性虹彩毛様体炎を発症するリスクが高く、そのため(3か月毎の)定期的な細隙灯顕微鏡による眼科検査が必要です。
HLA-B27は細胞マーカーで、付着部関連関節炎患者で最大80%が陽性です。健康な人であれば、その陽性率は5-8%程度とされています。
血沈(ESR)やCRPなど、全身性の炎症病態を反映する検査も有用です。しかし、診断や治療の決定に際しては、検査結果よりも臨床症状が重視されます。
治療にもよりますが、治療による副作用や無症状の治療毒性などを評価するために、患者は定期的な検査(末梢血、肝機能、尿)を受ける必要があります。関節における炎症は、診察を主体に、時には超音波検査のような画像検査で評価されます。定期的なエックス線検査やMRI検査は、骨の健常性や成長の評価に有用で、それによって治療内容を修正することもあります。
3.2 どのように治療するのか?
JIAに対する特異的な治療法はありません。治療目標は全ての型のJIAにおいて、痛みや倦怠感、こわばりを取り除き、関節や骨の損傷を防ぎ、関節の変形を最小限にとどめ、予後を改善して健全な成長や発達を保つことです。この10年で、 JIAの治療は生物学的製剤として知られる薬剤の開発によって劇的に進歩しました。しかしながら、それでも"治療抵抗性"、つまり治療しているにも関わらず、関節の炎症が治まらない患児もいます。治療内容を決める際に、いくつかのガイドラインは存在しますが、治療は患者一人一人の状態に応じて決めるべきです。治療内容の決定に際して、両親も関わることは非常に大切です。
治療は、全身や関節の炎症を抑える薬剤と、関節機能の維持と変形予防を目的としたリハビリが中心となります。
治療は極めて複雑で、異なる専門家(小児リウマチ医、眼科医、理学・作業療法士、整形外科医)の協力が必要です。
次項では、JIAに対する近年の治療戦略について述べます。それぞれの治療薬に関する詳細は、治療薬の項でみることが可能です。それぞれの国において、認可されている薬が異なります。つまり記載している全ての薬が、あらゆる国で使用できるわけではありません。
非ステロイド性抗炎症薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、全ての型のJIAやその他の小児リウマチ疾患において、長い間治療の主役となっていました。NSAIDsは「対症療法」として抗炎症作用や、解熱作用(熱を下げる)もつ薬です。「対症療法」という意味は、NSAIDsによって炎症が治まるのではなく、炎症によって起こる症状を出にくくするということです。最も広く使われている薬はナプロキセンとイブプロフェンです。アスピリンは安価で効果もありますが、その治療毒性の危険性(全身型JIAにおいて、効果を表す程度まで増量すると肝障害を起こします)から、現在はほとんど使われていません。NSAIDsは多くの場合、継続率が高い薬です。胃部不快感は成人で最も多い副作用ですが、小児での頻度は多くありません。一つのNSAIDsが効かない場合であっても、他のNSAIDsが有効な場合もあります。NSAIDsにおける製剤毎の関連性は明らかではありません。関節炎に対する有効性は、治療開始の数週間後に現れます。
関節内注射
関節内注射は、1つかそれ以上の関節において、活動性が強く関節を普通に動かすことができない場合や痛みの強い小児に対して適応されます。注入する薬剤は長時間作用型の鉱質コルチコイドを用います。トリアムシノロンヘキサセトナイド*は、効果が長く持続するため(しばしば数か月毎)好んで使われます。また、全身循環系への吸収も最少です。少関節炎の治療の選択肢であり、他の病型でも使われます。関節内注射は、同じ関節に何度も繰り返すことができます。関節内注射は、患児の年齢や注射する関節の場所や数に応じて、局所麻酔や全身麻酔(通常は年少者)で行われます。1年間のうちに同じ関節に3-4回以上注射することは通常勧められません。
*日本では未承認です。
関節内注射は、それが必要な場合や、他の薬剤の効果が出現するまで、早く痛みやこわばりを改善させるため、ほとんどのケースで他の治療と組み合わせます。
第2選択薬
第2選択薬はNSAIDsやステロイド関節内注射を行っているにも関わらず、多関節に炎症が残っている小児に適応されます。これらの薬は、先行投与されているNSAIDsに追加する形で投与されます。ほとんどの第2選択薬は、数週間から数か月の投与で効果を現します。
メトトレキサート(MTX)
世界中のJIA患者において、メトトレキサートは第2選択薬の中の第一選択薬であることは、疑う余地がありません。いくつかの研究によって、数年間に渡るメトトレキサート投与での効果と安全性は証明されています。医学誌には最大の効果が得られる投与量が示されています(15mg/m2を経口または非経口で。非経口の場合は通常は皮下注射で投与)*。そのため、週1回のメトトレキサート投与は、特に多関節炎JIA患者においては第1選択薬です。メトトレキサートは多くの患者において効果の得られる薬です。抗炎症作用だけでなく、詳細な機序は不明ですが、病気の進展を抑えたり、寛解に至ることもできます。薬剤の認容性(中止が必要となる副作用がないこと)も良好です。胃部不快感や肝酵素上昇は最も頻度の高い副反応です。治療中は定期的に検査をして薬剤の毒性を評価する必要があります。
*日本で認められている投与量は10 mg/m2/wです。
現在、JIAに対してメトトレキサートを投与することは、世界のほとんどの国で認可されています。メトトレキサートに葉酸(特に、肝障害のリスクを軽減させるビタミン)を併用することが推奨されています。
レフルノミド
レフルノミドは、特にメトトレキサートを投与できない小児において、メトトレキサートの代わりとなる薬です。レフルノミドは錠剤の内服薬で、JIAにおける治療効果はすでに示されています。しかしながら、この薬はメトトレキサートよりも高価です。
サラゾピリンとシクロスポリン
その他の非生物学的製剤、例えばサラゾピリンは、JIAに対する有効性は示されているものの、認容性についてはメトトレキサートに劣ります。サラゾピリンの使用報告からも、メトトレキサートと比べるとはるかに劣ります。現在のところ、シクロスポリンのような極めて有用と思われる薬剤の有効性について、JIAでの適切な研究は行われていません。
少なくとも生物学的製剤が広く使用できる国においては、サラゾピリンやシクロスポリンはますます使われなくなってきています。シクロスポリンは、副腎皮質ステロイドと併用することで、全身型JIAのマクロファージ活性化症候群(MAS)に対する治療にとして、非常に有効な薬剤です。MASは全身型JIAにおいて生命を脅かす可能性のある重篤な病態であり、炎症過程の全般的な活性化が過剰になり発生します。
副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドは、最も強い抗炎症効果が得られる薬ですが、その使用に際しては制限があります。なぜなら長期間の投与によって骨粗鬆症や成長障害などの重篤な副作用があるからです。それにも関わらず、副腎皮質ステロイドは、他の薬剤が無効な生命を脅かす全身合併症や、第2選択薬の効果発現までの間の急性期症状を抑える橋渡しとして有用です。
ステロイド外用(点眼薬)は虹彩毛様体炎に対する治療で用いられます。より重症な場合はステロイドの眼球周囲(眼球の内部)への注射や副腎皮質ステロイドの全身投与が必要となります。
生物学的製剤
ここ数年の間で、生物学的製剤として知られている薬剤を用いた新しい治療の考え方が導入されました。メトトレキサートやレフルノミドとは異なり、生物工学によって開発された特定の分子(腫瘍壊死因子またはTNF、インターロイキン1,インターロイキン6,T細胞刺激分子)に直接作用する薬剤に対して、医師は生物学的製剤という単語を用います。生物学的製剤は典型的なJIAにおける炎症反応を阻害する重要な治療手段として確立されています。現在あるいくつかの生物学的製剤のうち、JIAにだけに認可されたものが殆どです。(以下参照)
抗TNF製剤
抗TNF製剤は炎症のプロセスにおいて中心的な役割を果たすTNFを選択的に抑えます。それらは単独やメトトレキサートとの併用で用いられ、ほとんどの患者において有効です。その効果発現は極めて早く、数年間の治療での安全性も証明されています(安全性の項参照)。しかしながら、長期的な副作用などの可能性を確かめるためには、より長期間のフォローアップが必要です。JIAで使用される生物学的製剤(いくつかの種類のTNF阻害薬)は、世界中で最も広く使われている薬剤で、投与方法や投与間隔が大きくことなります。例えば、エタネルセプト(商品名:エンブレル)は週2回の皮下注射で、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)は2週間に1回の皮下注射、インフリキシマブ(商品名:レミケード)は月1回の静注製剤です。その他にも、現在小児での検討を行っている製剤(ゴリムマブやセルトリズマブ ペゴル)もあります。また成人で検討されているその他の分子生物学的製剤もあって、将来的には小児でも認可されるかもしれません。
多くの場合、抗TNF阻害薬は、通常は使用する必要のない持続型の少関節炎JIAを除いた、多くのタイプのJIAに対して用いられます。しかし、全身型JIAに対して抗TNF阻害薬を使うことは限定的で、抗TNF製剤以外の生物学的製剤(例えば抗IL-1β製剤(アナキンラやカナキヌマブ)*または抗IL-6製剤(トシリズマブ))が用いられます。抗TNF阻害薬は単独あるいはメトトレキサートとの併用で用いられます。その他の第2選択薬と同様に、厳密な医療管理のもとで投与されます。
*2016年現在、日本ではアナキンラは未承認、カナキヌマブは臨床治験中です。
抗CTL4Ig製剤(アバタセプト)
アバタセプト*は白血球の一部であるTリンパ球に直接作用するという特有のメカニズムを持つ製剤です。最近は、メトトレキサートや他の生物学的製剤で効果のなかった多関節炎JIA患者の治療に用いられます。
*2016年現在、日本では臨床治験が進行中です。
抗インターロイキン1(アナキンラやカナキヌマブ)と抗インターロイキン6(トシリズマブ)
これらの製剤は、特に全身型JIAの治療に有用です。通常、全身型JIAの治療は副腎皮質ステロイドから始まります。しかし、ステロイドには成長障害などの副作用があり、有効であっても短期間(2-3か月)の投与では疾患活動性を抑えることはできません。そのため、医師はステロイドに加えて、抗IL-1(アナキンラやカナキヌマブ)または抗IL-6(トシリズマブ)を全身症状(発熱)や関節炎に対して追加します。全身型JIAの子どもの中には、全身症状が自然に消失しても関節炎のみ持続する例があります。このような患者には、メトトレキサートを単独で、あるいは抗TNF阻害薬またはアバタセプトと併用して開始します。トシリズマブは全身型と多関節炎のどちらに対しても使うことができます。このことは、当初は全身型で後に多関節炎タイプへ移行したJIAで初めて証明され、メトトレキサートやその他の生物学的製剤の効果に乏しい例でもトシリズマブが投与されます。
その他の支持療法
リハビリテーション
リハビリテーションは治療に不可欠な構成要素です。適切な運動だけでなく、適応があれば痛みやこわばり、筋肉の拘縮、関節の変形を抑え、適正な関節位置を保つために副木(シーネ)を使用することもあります。リハビリテーションは関節や筋肉の動きを良好に保つために早期に開始して定期的に行うべきです。
整形外科的手術
整形外科的手術の主な適応は、破壊された関節に対する人工関節置換術 (主に股関節や膝関節)と、永続的な拘縮がみられる軟部組織の手術による弛緩です。
3.3 民間療法/補足的治療とは?
多くの補足的治療や代替医療があり、患者や家族を惑わせます。それらの効果はほとんど明らかでなく、費用や時間もかかり、子どもにも家計にも負担となるので、これらの治療を試す時には、その効果と危険性について注意深く考えるべきです。もしもあなたが補足的/代替的な治療を試したいのであれば、あなたの主治医である小児リウマチ医師に十分に相談をしてください。治療によっては、通常の治療に影響があるかもしれません。ほとんどの医師は代替医療に対して否定的ではなく、医学的なアドバイスをしてくれるでしょう。自己判断で治療薬を止めないことも重要です。副腎皮質ステロイドのように病気をコントロールするために必要な薬剤について、もしも病気の活動性が残っていれば、内服を中止することは極めて危険です。治療に関することは、子どもさんの主治医とよく相談してください。
3.4 いつ治療を始めるべきか?
現在、医師や患者家族の治療選択を助ける、国際的または国内向けの推奨治療指針が示されています。
最近になり、国際的な推奨治療指針が米国リウマチ学会( ACR at www.rheumatology.org) から示され、その他にも、現在は欧州小児リウマチ学会 ( PRES at www.pres.org.uk) により推奨治療指針の準備が進められています。
これらの推奨治療指針では、重症度が低い患児(2-3関節の炎症)であれば、通常はNSAIDsや副腎皮質ステロイドの関節内注射で対応することになっています。
より重篤なJIA(多関節炎)患者では、メトトレキサート(または程度が軽ければレフルノミド)をまず開始し、効果が乏しければ生物学的製剤(第1選択は抗TNF製剤)を単独またはメトトレキサートとの併用で用います。メトトレキサートや生物学的製剤に抵抗性または継続が困難となった場合には、別の生物学的製剤を用いることができます(他の抗TNF製剤やアバタセプト)。
3.5 小児に対する法規制は? 適応/非適応薬剤の使用と将来的な治療法の可能性は?
15年前まで、JIAやその他の小児疾患に用いられる全ての薬剤は、小児を対象に正しい方法で行われた研究はありませんでした。このことは、医師は自分の経験や、成人患者で行われた研究結果を参考に、治療薬を処方していたことを意味します。
実際に、一昔前は小児で研究を行うための財源がなく、小規模で見返りの望めない小児領域の販売市場に対して製薬会社が関心を示さないこともあり、小児リウマチ領域で臨床研究を行うことは困難でした。そのような状況は2−3年前に一変しました。それは、the Best Pharmaceuticals for Children Act (最適小児医薬品法)が米国で導入され、欧州連合EUにおいても小児向け医薬品の開発に対する特別な法律が導入されたことによります。これらの先進的な法律は、小児に対する製剤研究を製薬会社に促す効果がありました。
米国と欧州連合は、世界50か国以上が集まる小児リウマチ国際研究機関 (PRINTO www.printo.it ) と、北米を中心とした小児リウマチ共同研究グループ( PRCSG www.prcsg.org )の2つの大きな組織が協働し、小児リウマチ領域の発展に良いインパクトをもたらすとともに、特にJIA患者に新たな治療法を確立することに貢献しました。数百人のJIA患者とその家族が世界中のPRINTOやPRCSGの関連施設で臨床研究に参加し、全てのJIA患者が、彼らのために開発された薬剤で治療を受けることが可能になりました。対象の治験薬が副作用よりも有効性が上回るかを確かめるために、臨床研究に参加した患児は偽薬(薬効のない錠剤または注射剤)を投与されることもあります。
このような重要な研究のお陰で、今日いくつかの薬剤がJIAに対して認可されています。このことは、アメリカの食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)をはじめ、いくつもの国の医薬品担当当局*が、治験から得られた情報をもとに科学的なデータを修正し、製薬会社に対して小児に対する効果と安全性を表記することを許可しています。*日本では医薬品医療機器総合機構PMDAがこれにあたります。
JIAに対して認可されている薬剤には、メトトレキサート、エタネルセプト、アダリムマブ、アバタセプト*、トシリズマブ、カナキヌマブ*があります。*2016年現在、日本では治験中です。
その他の製剤は、現在治験を継続中です。なので、あなたのお子さんも主治医の先生からそのような治験への参加を呼びかけられるかもしれません。
いくつかの種類のNSAIDsやアザチオプリン、シクロスポリン、アナキンラ、インフリキシマブやゴリムマブ、セルトリズマブペゴルなどのように、公式にはJIAに対して認可されていない薬剤もあります。これらの薬剤は、保険適応がなかったとしても使うこともあり(保険適応外使用)、他に有効な治療方法がない場合には主治医がこれらの薬剤の使用を提案するかもしれません。
3.6治療の主な副作用は?
JIAの治療に用いられる薬剤の多くは、認容性に優れています。胃部不快感はNSAIDsで最も高頻度でみられる副作用です(そのため食事と一緒に服薬すべきです)が、小児では成人と比較して低頻度です。NSAIDsによって血中の肝酵素が上昇することがありますが、アスピリンに比べて稀な現象です。
メトトレキサートも認容性の高い薬剤です。嘔気や嘔吐などの胃腸における副作用は、稀ではありません。治療毒性をチェックするために、定期的な血液検査(血球数、肝酵素)を行うことは大切です。最も多い副作用は、肝酵素の上昇ですが、薬剤の中止または減量することで正常化します。葉酸を加える事は、肝毒性の頻度を減らすのに効果的です。メトトレキサートに対する薬剤過敏症は稀に起こります。
サラゾピリンは認容性の高い薬剤です。最も頻度の高い副作用は皮疹、胃腸障害、肝酵素上昇(肝毒性)、白血球減少(白血球数の低下による易感染性)です。そのため、メトトレキサートのように定期的な検査が必要です。
高用量の副腎皮質ステロイドを長期間使用することで、重篤な副作用が起こります。それは成長障害や骨粗鬆症などを含みます。高用量の副腎皮質ステロイドによって、食欲が亢進して肥満となります。そのため、子どもに対してはカロリーを増やすことなく食欲を満たす食材を摂ることが勧められます。
生物学的製剤は通常、少なくとも初めの数年間は認容性に優れています。患者は、感染症や他の有害事象が起きる可能性があるので注意深くモニタリングされるべきです。しかしながら、現在JIAで投与されている製剤の投与経験は、症例数 (治験では200-300人程度)でも、投与期間(生物学的製剤は2000年*以降に使われるようになったばかり)でも、限られたものであることを理解しておくことは重要です。このような理由から、生物学的製剤で治療しているJIAの子どもたちを詳しく調査し、長期投与で安全性に関する問題が生じないか確かめるために、現在では国内(ドイツ、イギリス、アメリカなど)や国際間(PRINTOやPRESが主導している Pharmachild)でのJIA患者登録制度が作られています。
*日本では2008年から使用されています。
3.7 治療はどの程度の期間続けるべきか?
治療は、病気が続いている限り続けるべきです。疾患の持続期間は、予見できません。多くの場合、JIAは数年〜数十年の後に自然寛解します。JIAの自然経過は寛解と増悪を繰り返すことが特徴で、これによって治療は大きく変わります。完全に治療を止めることは、長期間(6-12か月、あるいはそれ以上)関節炎がない場合に考慮するべきです。しかしながら、一度治療を中止した後に、病気が再燃する可能性を見極める術はありません。医師は多くの場合、たとえ関節炎が消失したとしても、JIAの患児が大人になるまでフォローアップします。
3.8 眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査):その頻度と期間は?
リスクの高い(特に抗核抗体陽性)患者では、細隙灯顕微鏡は少なくとも3か月毎に行うべきです。虹彩毛様体炎を発症した患者では、眼科受診時に眼科合併症の重症度を判定してもらい、それに応じて更に頻回に検査を行うべきです。
時間の経過とともに、虹彩毛様体炎の発症リスクは減っていきます。しかし、関節炎発症後から何年経っても虹彩毛様体炎を起こす可能性はあります。そのため、関節炎が寛解していても、眼科的検査は何年にもわたって念入りにする必要があります。
関節炎と付着部炎のある患者に合併する急性ぶどう膜炎は、眼症状(眼球充血や眼痛、光を嫌がる、羞明などの)が出現します。もしそのような症状を認めた時は、すぐに眼科を受診しましょう。少関節炎に合併する虹彩毛様体炎とは異なり、早期診断のために細隙灯顕微鏡の検査を繰り返す必要はありません。
3.9 関節炎の長期間の経過(予後)は?
ここ数年で、関節炎の予後は劇的に改善しましたが、その予後はまだ、JIAの重症度や病型、早期診断できたか、適切な治療が行われたかなどに左右されています。現在も全ての子どもたちが治療を受けられるように、新しい薬剤や生物学的製剤の開発研究が進められています。関節炎の予後はここ10年でかなり改善しています。結果として、40%近くのJIA患者において、発症から8-10年の経過で症状が消失(寛解)しており、最も寛解率が高かったのは少関節炎持続型と全身型JIAの患者でした。
全身型JIAの予後は患者ごとに大きく異なります。約半数の患者には関節炎の徴候がなく、断続的に再発することが主な特徴です。疾患自体は自然に寛解することが多いので、最終的な予後は良好です。残りの半数の患者では、全身症状が数年で治まっていくにも関わらず、関節炎が持続する特徴があります。このような患者では重篤な関節破壊が進行することもあります。そして、後者の患者群の中のさらに少数の患者では、全身症状と関節炎が持続する患者もいます。このような患者の予後は最も悪く、アミロイドーシスという、免疫抑制治療が必要となる重篤な合併症が起こります。抗IL-6阻害薬(トシリズマブ)や抗IL-1β阻害薬(アナキンラやカナキヌマブ)などの分子標的生物学的製剤によって、長期的予後は著しく改善するものと思われます。
RF陽性多関節炎は、しばしば重篤な関節ダメージを引き起こす進行性の関節炎疾患です。この病型は、小児において、成人の関節リウマチとも言える疾患です。
RF陰性多関節炎は臨床症状と予後が複雑です。しかし、最終的な予後はRF陽性多関節炎JIAよりも良好で、約1/4の患者しか関節傷害が残りません。
少関節炎は炎症関節が2-3関節にとどまっている場合には、関節予後はほぼ良好です(これらは持続型少関節炎と呼ばれます)。炎症関節が増えていく患者(進展型少関節炎)は、RF陰性多関節炎と似たような経過をたどります。
乾癬型JIA患者の多くは、少関節炎JIAと似ていますが、残りは成人の乾癬性関節炎と似ています。
付着部関連関節炎型JIA患者についても予後はさまざまです。寛解する患者もいれば、仙腸関節に関節炎を起こす患者もいます。
近年まで、発症早期の臨床症状や検査所見に関する信頼できるデータが得られなかったので、医師はどの患者の予後が最も悪いか予想することができませんでした。そのような予後予測因子は臨床的に重要で、予後不良と予測される患者では、発症早期からより積極的な治療を行う必要があります。その他の検査マーカーについては、メトトレキサートや生物学的製剤を中止するときの指標にならないか、現在も研究が進められています。
3.10 虹彩毛様体炎については?
虹彩毛様体炎が治療されないままであれば、水晶体が混濁(白内障)して、失明するなど非常に重篤な合併症が起きる場合があります。しかしながら、点眼などで炎症を抑え角膜を広げる治療を早期に開始すれば、このような症状は多くの場合起こりません。もしも点眼治療の効果が十分でなければ、生物学的製剤が必要な場合もあります。しかし、患児一人一人で治療反応が異なるため、重症の虹彩毛様体炎に対して最善の治療を選択するための明確な証拠はありません。それゆえ、早期診断は予後に大きく関わります。白内障は特に全身型JIAにおける長期間の副腎皮質ステロイドによっても起こります。
4.1 食生活は疾患に影響するのか?
病気に食生活が影響するという証拠はありません。一般的に、患児はその年令に応じたバランスの良い普通の食事を摂ることが勧められます。副腎皮質ステロイドを使用している患児は、例え少量であっても治療中は食欲が亢進するので、カロリーや塩分を控えるべきです。
4.2 天候は疾患に影響するのか?
天候が病気の症状に影響するという証拠はありません。しかし、朝のこわばりは寒い時期には長引くかもしれません。
4.3 運動や理学療法を行うことはできるのか?
運動や理学療法を行う目的は、患児が日常生活での活動に積極的に参加したり、社会的な役割を果たしたい気持ちを手助けすることです。さらに、運動や理学療法を行うことで、積極的な健康生活を支えることができます。そのような目的を果たすために、健全な関節と筋肉は必要不可欠です。運動や理学療法によって、関節の動きや安定性、筋肉のしなやかさや強度、協調運動や持続力(スタミナ)が、さらに改善します。このような筋骨格の健康によって、こどもは学校生活のみならず、積極的な課外活動や運動などの学外活動の中でも安全に、十分に活動することができます。治療や自宅での運動は、必要最低限の筋力や安定性を得るための手助けとなります。
4.4 運動はしてもよいのか?
健康な子どもにとって、日常生活の中で運動することは非常に大切です。JIAにおける治療目標の一つは、できるだけ通常の生活を送らせることと、周りの友人と変わらないと自覚させることです。そのため、特に思春期では、一般的には患児に運動する活動に参加することを許可し、関節が痛い時には自分から運動を止めてくれると信頼することです、その際に体育教師には関節を酷使する運動は避けるように助言しておきましょう。炎症を起こした関節では、機械的なストレスは良くありませんが、病気だからという理由で友達とのスポーツを控えさせたことによる心のダメージと比べたら微々たるものと思われます。この考え方は、患児を自主的にし、病気で生じた制限を自ら克服していくことを応援する普遍的な心構えです。
このような状況でなければ、水泳や自転車に乗ることなどの関節への負担が少ないかほぼ無い運動をすることが好ましいです。
4.5 子どもは普段通りに学校に行けますか?
子どもが普通に学校へ行けることは非常に大切です。運動制限があることは、学校生活への障壁となりえます。制限があると歩くことが難しく、疲れや痛み、こわばりの要因にもなりかねません。そのためいくつかのケースでは、患児の学校生活に制限があることを、学校での支援者や友達に理解してもらい、移動を介助する設備や人間工学に基づいた椅子、手書きやタイピングするための道具を用意してもらうことは大切です。病気の活動性による運動制限の程度に応じて、子ども達が体育や運動へ参加することは奨励されるべきです。学校での支援者が、JIA自体や病気の経過、予期しない時期に再燃しうることを理解しておくことは重要です。自宅学習の計画も必要でしょう。学校の先生に患児にとって必要な欲求を伝えておくことも大切です。患児に適した机や、関節のこわばりを予防するために学校にいる間も定期的に体を動かすこと、筆記が困難かもしれないことなどです。両親も可能な限り体育に参加すべきです;この場合、運動に関して事前によく話し合って共通の認識のもとで行うべきです。
子どもにとっての学校は大人にとっての仕事と同じであり、生産的で自立した、自主的な人間になるための方法を学ぶ場所です。親や教師は、学業のためだけでなく、仲間や大人との良好なコミュニケーション能力を養うことで友達から受け入れられて尊敬されるために、病気の子ども達が普通に学校活動に参加できるよう励ますためには何でもすべきです。
4.6 予防接種は可能ですか?
もしも患者が免疫抑制的な治療(副腎皮質ステロイドやメトトレキサート、生物学的製剤)を受けている場合、免疫力が低下して感染を起こす可能性があるため、生ワクチン(風疹、麻疹、流行性耳下腺炎、ポリオ、BCGなど)の接種は延期するか、避けるべきです。理想的にはこれらのワクチンは、副腎皮質ステロイドやメトトレキサート、生物学的製剤などの免疫抑制薬が始まる前に接種しておくべきです。生きた微生物を含まず、タンパクのみを含んだワクチン(例えば破傷風、ジフテリア、不活化ポリオ、B型肝炎、百日咳、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌など)は接種可能です。唯一のリスクは免疫抑制の程度によりますが、ワクチン効果がない場合で、その場合ワクチンによる防御力は低くなります。しかし、例え感染防御力が低くなっても、小児ではスケジュールにそった予防接種を受けることが勧められています。
4.7 JIAの子どもは普通に成人として生活できるのか?
普通の社会生活を送ることは、治療目標の一つであり、ほとんどのケースでそれは可能です。JIAの治療は新薬の登場によって劇的に改善しており、将来的にはさらに良くなっていくでしょう。薬物治療とリハビリを組み合わせることによって、ほとんどの患者で関節ダメージを防ぐことができるでしょう。
患者やその家族において、心理的な影響が起きることに対して、より注意しなければなりません。JIAのような慢性疾患は家族全体の困難な問題となります、もちろん病気が重症であればあるほど受け入れることは難しいです。両親が病気を受け入れることができなければ、子どもが病気を受け入れることはできません。親は子どもに対して強い愛情を抱き、子どもを困難から遠ざけようとして、過保護になるかもしれません。
病気であったとしても、できるだけ子どもが自立するように、勇気づけてサポートしようとする両親の前向きの姿勢は、その子が病気から生じた困難に立ち向かい、仲間とうまく協力して、バランスのとれた自立した人間性を獲得することに、大変役立ちます。
心理的なサポートが必要な場合は、小児リウマチの専門家によって提言されるべきです。
家族会や慈善団体は、患者家族が病気を受け入れるための助けとなるかもしれません。