PAPA症候群 


版 2016
diagnosis
treatment
causes
Papa Syndrome (Piogenic Arthritis, Pioderma, Gancrenosum and Acne)
PAPA症候群
PAPAはPyogenic Arthritis, Pyoderma gangrenosum and Acneの頭文字をとった略語で、化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群と訳されます。遺伝性の病気で、繰り返す関節炎・壊疽性膿皮症と呼ばれる皮膚の潰瘍・嚢腫性ざ瘡と呼ばれるにきび、が3主徴です。 1
evidence-based
consensus opinion
2016
PRINTO PReS



1.PAPA症候群とはどんな病気ですか?

1.1どのような病気ですか?
PAPAはPyogenic Arthritis, Pyoderma gangrenosum and Acneの頭文字をとった略語で、化膿性無菌性関節炎・壊疽性膿皮症・アクネ症候群と訳されます。遺伝性の病気で、繰り返す関節炎・壊疽性膿皮症と呼ばれる皮膚の潰瘍・嚢腫性ざ瘡と呼ばれるにきび、が3主徴です。

1.2患者の数はどのぐらいですか?
PAPA症候群はとても稀な病気で、全世界でも10例に満たない報告しかありません。詳しい頻度は不明であり、実際にはもう少し多い可能性もあります。男女差はなく一般的には小児期に発症します。

1.3病気の原因は何ですか?
PAPA症候群はPSTPIP1と呼ばれる遺伝子の変異を原因とする遺伝性の病気です。この遺伝子は炎症反応を調節する働きのある蛋白質をコードしますが、変異によりその蛋白の機能に変化が生じます。

1.4 遺伝しますか?
PAPA症候群は常染色体優性遺伝形式をとります。これは性別に関係なく発症すること、加えて両親の少なくとも一方に何らかの症状が認められ、通常家族内に複数の罹患者が世代毎に存在する事を意味します。PAPA症候群の患者が子どもをもうけようと考えた場合、その子どもが病気になる可能性は50%です。

1.5なぜ私の子どもはこの病気にかかったのでしょうか?防ぐ方法はないのでしょうか?
この病気の子どもは両親のどちらかからPSTPIP1遺伝子の変異を受け継いでいます。この変異を持っている親は病気の全ての症状を呈する場合もあれば、呈さない場合もあります。この病気を防ぐ事はできませんが、症状を治療する事は可能です。

1.6他人へ伝染しますか?
伝染しません。

1.7どういう症状が出ますか?
この病気の最も一般的な症状は関節炎・壊疽性膿皮症・嚢腫性ざ瘡ですが、一人の患者が同時期に3つ全ての症状をもっている事は稀です。関節炎は通常小児期早期(初発時期は1歳~10歳)に発症し、個々のエピソードでは一関節のみが冒され、腫脹・発赤と痛みを伴います。臨床的には化膿性関節炎(細菌感染により起こる関節炎)と似ています。PAPA症候群の関節炎は、関節軟骨と関節周囲の骨に障害を残す事があります。壊疽性膿皮症として知られる皮膚潰瘍は通常関節症状より遅く出現し、多くは下肢に認められます。嚢腫性ざ瘡は顔や体幹に見られ、通常思春期に出現し成人になるまで持続する事があります。これらの症状は皮膚や関節への小さな怪我などにより誘発される傾向があります。

1.8症状はどの子でも同じですか?
症状は患者により様々です。この遺伝子変異を持つ患者でも、3症状の全てを呈するとは限らず、ごく軽度の症状しか認めない事もあります(病気の"浸透率"は様々です)。更に、症状は変化する場合があり、一般的には年齢が上がるにつれ改善する傾向があります。


2.診断と治療

2.1どのように診断しますか?
化膿性関節炎に似ているが、抗菌薬には反応しない痛みを伴う炎症性の関節炎を繰り返す症例にPAPA症候群を疑います。関節炎と皮膚病変を同時期に認めない場合があり、これらの症状は全ての患者に認められるわけでもありません。詳細な家族歴の調査も必要です。常染色体優性遺伝疾患ですので、他の家族も何らかの症状を呈している可能性が高い為です。遺伝子検査によりPSTPIP1遺伝子の変異を確かめる事によってのみ診断の確定が可能です。

2.2検査で重要なものは何ですか?
血液検査:赤血球沈降速度(ESR)、CRP、及び白血球数は、通常関節炎を認める間は異常値となります。これらの検査は炎症の存在を確認する事を目的としており、異常値が認められてもPAPA症候群に特異的なものではありません。
関節液の評価:一般的に関節炎の発作中には関節液を評価する目的で関節穿刺が行われます。PAPA症候群の関節液は化膿性(濃い黄色)であり、白血球の一種である好中球が多く含まれます。この検査所見は化膿性関節炎と同様ですが細菌培養検査は陰性です。 遺伝子検査:PAPA症候群の診断を確定する唯一の検査は遺伝子検査でPSTPIP1の疾患関連変異を確認することです。遺伝子検査は少量の血液を用いて行われます。

2.3治療法や根治療法はありますか?
PAPA症候群は遺伝性の病気であり完治することはありません。しかし炎症をコントロールする薬によって関節炎を治療し、関節の障害を防ぐ事はできます。皮膚病変も同様にコントロール可能ですが、治療に対する反応はゆっくりです。

2.4どんな治療法がありますか?
PAPA症候群の治療法は主要な症状が何かによって変わります。関節症状に対してはステロイドの経口投与や関節内投与が比較的早く効果を示します。ステロイド投与で満足な効果が得られない場合や再燃を繰り返す事があるため長期間のステロイド投与が必要となり、副作用が問題となる場合があります。壊疽性膿皮症は経口ステロイド薬にある程度反応し、免疫抑制剤や抗炎症剤の外用療法(クリーム等)も行われます。ただ治療への反応は遅く病変は痛みを伴います。最近、一例報告にとどまるものの生物学的製剤であるIL-1阻害剤やTNF阻害剤での治療が報告され、壊疽性膿皮症および繰り返す関節炎への効果が報告されています。しかし、PAPA症候群は稀な病気であるため比較対象試験は存在しません。

2.5薬物療法の副作用にはどんなものがありますか?
ステロイド治療による副作用としては、体重増加、顔のむくみ(満月様顔貌)と気分障害が挙げられます。長期使用では成長障害や骨粗鬆症が問題となります。

2.6治療期間はどのくらいになりますか?
一般的に繰り返す関節炎や皮膚病変をコントロールする事に治療の主眼が置かれ、長期間継続して薬剤が投与される事は少ないです。

2.7代替治療、補完療法はありますか?
効果的な補完療法の報告はありません。

2.8病気はどのくらい続きますか?
通常、年を取るにつれて症状は軽快・消失していきますが、全ての患者がそうなるわけではありません。

2.9長期的予後(予想される結果や経過)はどのようなものですか?
加齢により症状は軽快します。しかし非常に稀な病気のため正確な長期予後はわかっておりません。


3.日常生活

3.1病気のために子どもと家族の日常生活にはどういう影響がありますか?
急性発症する関節炎は日常生活を制限しますが、適切に治療すればかなり早く治療に反応します。壊疽性膿皮症は痛みを伴い、治療の効果が認められるのに時間がかかります。皮膚病変が顔などの目立つ場所に出現すると患者や家族の精神的な苦痛は大きくなります。

3.2学校についてはいかがですか?
慢性疾患の子どもにとって教育を受け続ける事は大変重要です。学校の出席に問題が生じるような要素が少しありますので、子どもに対してどのような配慮が必要であるかを教師に説明することが重要です。子どもが学業面で遅れないようにするばかりでなく、大人や同級生たちに受け入れられ、認められるために、両親と教師は子どもが学校の活動に普通に参加出来るように可能な事はすべて行う必要があります。将来的に職業人として社会に出る事は若い患者にとって重要な事であり、それこそが国際的な慢性疾患患者支援の目標の一つです。

3.3スポーツはできますか?
スポーツ活動は許容範囲内で行われます。一般的には、患者の運動活動への参加を許可し、関節が痛む場合には自分の意思で中止する事を信頼すると同時に、体育教師にけがを予防するように助言する事が、特に青年期の患者に対して推奨されます。運動による外傷は関節や皮膚の炎症の引き金となり得ますが、速やかに加療する事により、その身体的ダメージを病気のために友達と運動することを妨げられる精神的なダメージよりはるかに小さくすることが可能です。

3.4食事についてはいかがですか?
食事については特別な注意はありません。一般的に子どもはバランスのとれた、年齢相応の食事をとるべきです。健康でバランスが取れ、十分な蛋白質とカルシウムとビタミンを含む食事が成長期の子どもには推奨されます。ステロイドは食欲増進の作用があるため、投与中の患者は食べ過ぎに注意する必要があります。

3.5天候は病気の経過に影響しますか?
天候は病気の経過に影響しません。

3.6予防接種を受けることができますか?
もちろん患者は予防接種を受けられますし、受けるべきです。しかし、生ワクチンを接種する前には主治医に連絡を取り、個々に適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

3.7 性生活、妊娠、避妊についてはいかがですか?
現時点でこれらの事柄について役に立つ文献的情報はありません。一般的には、他の自己炎症性疾患と同様、生物製剤が胎児に及ぼす影響の可能性を考慮し、予め治療法の選択をおこなえる計画的な妊娠を考慮したほうがよいとされています。


 
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